白石蔵ノ介小説企画『毒と薬。』

□絶対に、涙は。
1ページ/3ページ

誰にも気付いてもらえなかった。

苦しんでること、辛いこと、いつも泣きそうなこと。
誰か気付いてって思いながら、誰にも言えなかった。

部長の責務は俺には重くて、重すぎて。

いつも『助けて』って思ってた。

誰にもわかってもらえない。
誰も俺を思ってくれない。

毎日が辛くて、でも上辺だけは無理矢理笑って。

いつしか「四天宝寺の聖書」、「テニスのバイブル」だと言われるようになった。


嬉しくない称号。
楽しくなくなったテニス。


絶対に涙は見せたくないと思った。

誰かに涙を見せるぐらいなら、舌を噛みちぎった方がマシだと思った。

それ程プライドが高くて、弱みを見せるのが下手くそだった。

弱みを見せたらそこで終わりだと思ったし、見せたくないという意地があった。

意地っ張りでプライドが高く、素直になれない奴で。

だから誰にも悩みを打ち明けられず、1人で抱え込むようになった。



甘えるのが苦手だった。
人に頼ることがどうしても出来なかった。

周りの人に分かってほしいと思いながら、自分からは何も言えずにいた。

結局俺は怯えていたんだと思う。

人と接することで傷つくのが怖い。
弱虫だと思われるのが嫌だ。

他人の目ばかり気にして生きていた。



誰も信じられないから、1人で生きて行く。
そういう思いが自分の中で構築されたんだと思う。

無意識のうちにそう考えるようになっていた。

誰にもそのことは言わなかったけれど、自分の中ではしっかりと決まっていた。




苦しくて、苦しくて――誰にもわかってもらえない日々。


辛くて、辛くて――それでも誰にも言えずにいた日々。




大好きだったテニスが苦痛で仕方なくなった時、限界だと思った。







――初めて、他人の前で泣いた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ