白石蔵ノ介小説企画『毒と薬。』
□走り続けると決めた日。
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「蔵のこと、悪いけど友達以上には思えへん」
ドサリ、と言う音が響いた。
そこはテニス部の部室で、いたのは白石蔵ノ介ただ一人。
少し前までは同じテニス部のメンバーがたくさんいたが、今は一人だった。
最後まで残っていたのは白石蔵ノ介と忍足謙也。
白石が謙也に「残ってほしい」と言ったからだった。
謙也のことが好きだと伝える為に残ったのだが、告白してすぐ断られてしまった。
そしてあまりのショックで床に倒れ――今に至る。
「あーあ。謙也、俺のこと好きやなかったんや」
床に転がったまま、白石は涙を目に溜めた。
溢さなかったのは意地以外の何物でもない。
本当は今すぐにでも泣きじゃくりたいのだが、場所が部室だったことを思い出す。
早く帰る支度をしなければと思い、白石は起き上がろうとした。
その瞬間、部室のドアが開いた。
「…部長。まだいたんすか?」
「なんや、財前か。どないしたん?」
ドアを開けたのは2年の財前光だった。
外は雨が降っているらしく、傘を畳み、髪の毛を手グシで整えながら入ってきた。
「いや…泣き顔でも見にこようかと思って」
「…いらんわ、そんなん」
財前は白石の気持ちを知っている唯一の人物だった。
白石が言ったわけではなく、財前に気付かれてしまったのだった。
「ほんまに泣いてるとは思わんかったですけど。アンタも泣いたりするんや」
「ええやろ。こっちは本気やったっちゅーねん」
目もとをこすりながら返すと、財前はにやりと笑った。