白石蔵ノ介小説企画『毒と薬。』

□走り続けると決めた日。
1ページ/3ページ

「蔵のこと、悪いけど友達以上には思えへん」


ドサリ、と言う音が響いた。

そこはテニス部の部室で、いたのは白石蔵ノ介ただ一人。
少し前までは同じテニス部のメンバーがたくさんいたが、今は一人だった。
最後まで残っていたのは白石蔵ノ介と忍足謙也。

白石が謙也に「残ってほしい」と言ったからだった。

謙也のことが好きだと伝える為に残ったのだが、告白してすぐ断られてしまった。


そしてあまりのショックで床に倒れ――今に至る。


「あーあ。謙也、俺のこと好きやなかったんや」


床に転がったまま、白石は涙を目に溜めた。

溢さなかったのは意地以外の何物でもない。

本当は今すぐにでも泣きじゃくりたいのだが、場所が部室だったことを思い出す。


早く帰る支度をしなければと思い、白石は起き上がろうとした。


その瞬間、部室のドアが開いた。



「…部長。まだいたんすか?」

「なんや、財前か。どないしたん?」


ドアを開けたのは2年の財前光だった。

外は雨が降っているらしく、傘を畳み、髪の毛を手グシで整えながら入ってきた。

「いや…泣き顔でも見にこようかと思って」

「…いらんわ、そんなん」


財前は白石の気持ちを知っている唯一の人物だった。

白石が言ったわけではなく、財前に気付かれてしまったのだった。



「ほんまに泣いてるとは思わんかったですけど。アンタも泣いたりするんや」

「ええやろ。こっちは本気やったっちゅーねん」


目もとをこすりながら返すと、財前はにやりと笑った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ