四天宝寺(短編)

□聖なる夜につたえたいこと。
1ページ/3ページ

ひらりと、舞った。くるくると、くるくると。
「あ、雪や」
隣に並ぶ謙也が空を見上げて呟いた。
俺の視線に気付いたのか、謙也はくるっとこちらに顔を向けて続けた。
「なぁ、蔵。雪やで、雪。ほんまに降ることってあるんやなぁ」
「クリスマスに、っちゅーこと?」
「せやせや。ホワイトクリスマスなんて初めてとちゃうん?」
そう言う謙也はとても嬉しそうだった。寒さに強いことが心底羨ましい。
俺はマフラーに手袋、耳あてまでしてるというのに、謙也はマフラーのみでそれでも笑っていた。
「初めてやんな。こないに寒くなるとは思わんかったわ……」
「そうか?そこまで寒い気せぇへんけど。蔵は寒がりやからな」
「謙也が寒さに強いだけやろ。絶対今日は寒いで。雪降るぐらいやし」
「はは、そうかもしれへん。まさか雪降るとは思わんかったからなぁ。蔵と一緒にクリスマス過ごすんは……三年目か?」
口元までマフラーを持っていき、こくりと頷く。
マフラーのおかげで少しだけ寒さが和らいだような気がした。
「早いなぁ。三年……色々あったな」
「……せやな」
目を閉じればすぐに思い出が蘇る。

そう、俺たちの間には本当に色々なことがあった。
何度も喧嘩して、喧嘩して、喧嘩して、別れて。
馬鹿みたいに仲直りして、また喧嘩して、喧嘩して、別れて。
その繰り返しだったように思う。
思い返せば謙也と三年間一緒にクリスマスを過ごせたのは奇跡だと思う。
何度も別れた。何度も、何度も。
けれど毎年クリスマスの時は一緒にいることが出来た。

偶然かもしれないけれど、奇跡のような偶然。
奇跡かもしれないけれど、必然のような奇跡。

誕生日も一緒にいれなかった。お正月すら一緒に越せない時があった。
それでもこの日だけはいつも一緒にいた。
隣に、謙也が、いた。


「ほんま……蔵とはずっと一緒におるな。こないに一緒におっても飽きひん。俺、飽き性やのに何でやろ?」
「何度も別れとるからっちゅーのもあるんとちゃうか。三年間ずっと一緒におったら謙也は俺に飽きてたと思うわ」
「たくさん別れたもんなぁ」
「10回ぐらいな。もっとか?」
思わず失笑が漏れた。こんなにも別れを繰り返して、また今まで通り付き合ったりして。
周りの友達には「またか」と呆れられた。
喧嘩は絶えない。大小問わずたくさん喧嘩を繰り返してきた。
殴り合って別れた時もあった。
「流石にこれはもうアカン」と思った時もある。
けれど、結局元のように付き合うのが俺と謙也だった。
「せやなぁ。って、蔵も飽きてたんとちゃうか?俺ら性格似とるし」
「否定はせえへん。せやけど、謙也よりはマシやと思う」
「そうか?大して変わらんって」
ふふっと謙也が笑うのと同時に、俺も同じように笑ってしまった。
あまりに一緒にいすぎたのだろうか。
仕草も性格も似てると言われることが多くなった。
確かに俺自身も似てるとは思う。だからこそ喧嘩するのだろうとも思う。
それはいいことなのか悪いことなのかわからなかった。
「よう言うわ。ゲームやり始めて3分ぐらいで飽きるくせに」
「マリオは遅いねん……!もっと早く走れるようにしてほしいわ」
「しゃーないしゃーない。ただの中年のオッサンなんやから」
「ちょ、マリオ可哀想やん!せめて中年の配管工って言ったり!」
「……中年は否定しないんか。結局フォロー出来てへんやん」
はぁ、と小さく溜息をついた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ