四天宝寺(短編)
□もう二度と届かないような思いなら。
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「謙也ぁ!」
そう呼びかけ、振り返ってくれるのを待つ。
「ん?…うわ!」
謙也が振り返ったと同時に、ペットボトルを放り投げた。
目の前に飛んできたペットボトルを謙也はパシっと綺麗に受け止め、にこっと笑った。
「さんきゅ!ほな、また明日な!」
「おう、明日な」
奢ってあげたコーラはきっと、謙也と――財前のものになるんだろうなと思った。
出会ってすぐに謙也のことが好きになった。
いつでも明るくて皆の中心にいる謙也は眩しくて、俺には届かない人だと思った。
テストをやらせればボロボロの点数で、毎回追試を受けていたけれど。
逆に俺は満点を取ってばかりいたけれど。
世の中、頭の良さじゃないと思い知らされる。
いくら頭が悪くても謙也はいつでも中心だった。
皆に愛されていた。
俺はそんな謙也が大好きで、謙也の傍にいられることが幸せだった。
一緒に帰るだけで嬉しかったし、二人で遊ぶ時はいつもわくわくしていた。
俺にとって謙也は大好きな人で、大切な人で、一生傍にいたい人だった。
なんとなくずっとそのままでいられるような気がしていた。
つかず離れずで、最終的にはそのまま傍に居続けられるのだろう、と。
そう思っていた。
――財前光が現れるまでは。
中学に入学して1年後、後輩としてテニス部に入ってきた財前は、そんな俺の希望をいとも容易く打ち破ってしまった。
俺がずっと言えなかったことを、アイツは出会って一週間で言った。
そして、初めての告白に舞い上がった謙也が勢いで頷いてしまった。
――更に最悪だったのは。
そのまま謙也が本当に財前のことを好きになってしまった。
あの時の悔しさと、悲しさと、淋しさと怒りを今でも覚えている。
「どうして先に言わなかったんだろう」と後悔した。
「何で俺より先に言ったんだ」と苛立った。