四天宝寺(短編)

□未だに空を、見上げてる。
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昔、空を見上げるのが日課であり、癖だった。
人と話すことが好きじゃなくて、誰かといることも苦手だった俺。
1人でいる時はほとんど空を見ていたと思う。

空が大好きだった。
その青は俺を癒してくれた。

壮大な自然を感じられたし、自分が此処にいてもいいと言ってくれるような気がした。

1人が大好きだった。

誰かとずっと一緒にいるなんて苦痛でしかないと思ってた。
だから俺は自ら1人を選んだ。
望んで1人になっていた。

それが一番いいと勝手に思い込んでいた。




「光、行こうか」




声がして、振り返る。
待ち人はようやく現れてくれたらしい。
時計を見ると10分過ぎていたけれど、気にはしなかった。


今、俺は謙也くんと一緒にいる。
毎日のように2人で会っている。
あんなに1人が好きだったはずの俺が2人でいるなんて、冗談のようなホントウ。

謙也くんは明るくて優しくて、俺には勿体ないぐらいいい人だと思う。
告白された時は心の底から驚いた。
でも、すごく嬉しかった。

きっと俺も好きだった。

あの頃、俺には“好き”がわからなかったけれど、そうだったんだろう。

だから告白に喜んだ。
「俺も」って笑って返すことが出来た。


思えば誰かといるようになったのなんて、謙也くんが初めてだ――




2人でいる時、俺たちは決まって公園に行っていた。
話すことが大好きな謙也くんと、聞くことが大好きな俺。
そんな俺らに適した場所は公園だったからだ。

ベンチに座って話を聞くのは大好きだった。
その相手が謙也くんということがとても嬉しかった。



昔は1人が幸せだった。2人でいるよりも1人でいる方が全然良かった。
それなのに今は駄目だ。
隣に謙也くんがいないと淋しい。

俺は弱くなったのかもしれない。
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