四天宝寺(短編)

□会いたい会いたい会いたい。
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春が来た。
桜が舞い散る季節。

新たな出会いに心躍らせて――誰もかれもが浮かれていた。

微妙な緊張感を混ぜながら、誰もが期待に胸を膨らませていた。

俺も気付けば中学3年になった。

けれど、浮かない顔。
そして苛立ちと悲しみが混じったような顔。

周りの人と比べて自分だけは酷く無愛想だった。

いつも通りと言えばいつも通りだけれど、俺自身はいつもよりずっと機嫌が悪かった。

それは今に始まったことではない。
少し前からずっとこうだ。

始業式が煩わしいとか、クラス替えに一喜一憂するのがうざったいとか。

そういうレベルの不機嫌さではなかった。

もっともっと前――卒業式を終えてから、ずっと。



3月に大好きな先輩が卒業した。
卒業式が終わった後、会い行くと、先輩は全く泣いていなかった。
それがすごく意外で、俺はかなり驚いた。

あの人は泣くだろうと思っていたのに。
あんなにも学校が大好きだった先輩。
部活も大好きだった先輩。

そんな先輩なのに、けろっとした顔で立っていた。


「光。俺、卒業やって。信じられへんわ」


苦笑するのも無理はない。
高校にギリギリで受かったような先輩。

「俺も信じられないっすわ。まさか卒業出来るとは思わへんかった」

「高校やったら終わってたな。これから気を付けなあかんわ」

「ほんまっすわ…。これからは…義務やないんやから」


なぜか俺の方が泣きそうになって、先輩に頭を撫でられた。

「泣くなや?俺が卒業したって…俺ら、変わらへんよ?」

先輩はそういうけれど、俺の涙は止まらない。
不安も止まりそうになかった。

たった1年――その差はとても大きい。

同じ中学生なら感じなかった俺らの差。
先輩が高校へ行ったことで開いた気がした。

何かが変わってしまう気がした。

俺はやっぱり後輩なんだと自覚しなければならないような。
中学生と高校生は違う、そう思わずにはいられなかった。
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