立海(長編)

□その手を離して、涙して。
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「ごめん、もう付き合ってたくない。もう…好きじゃないから」

「そっか…わかった」

淋しげな笑顔を浮かべて去っていったのを見て、思わず涙が一筋。

その涙の理由は、俺にはまだわからなかった――













丸井ブン太にとって仁王雅治は友達であり、親友であり、そして三日前までは恋人だった。

恋人でなくなった今、多分もう親友でもない気がしていた。

三日前、突然切り出した別れの言葉。
その一言で関係は綺麗に崩れ去った。

付き合った期間は三ヶ月。
長いとも短いとも言える期間だった。

ブン太にとっては長くても、雅治にとっては短いものだったのではないかと思っている。

理由は、ブン太の初めての恋人は雅治で、逆に雅治の四人目の恋人がブン太だったからだ。

つまり、今まで付き合った人がいる雅治は、自分との時間を短く思っていただろう。

ブン太が知っている話では、雅治が付き合った人は最低でも半年は続いてるから。

(まぁ、別に記録作りたくて別れたわけじゃねぇけど)

長いと感じた三ヶ月。
それは毎日が新鮮だったからかもしれない。

(アホらしい。今更考えてどうすんだ?)

ブン太は体を起こし、ベッドから出た。

時計を見ると、午前六時。
出発する時間まであと十分しかない。

(夢のせいだ。別れた時の夢なんて見たから起きられなかったんだ)

そう思い、言い訳したくなるが、そんな理由では幸村も真田も聞き入れてくれないだろう。

自分もそんな言い訳を他人に言いたくはなかった。

急いで準備をすると、六時十二分だった。
ギリギリ間に合いそうな時間だ。

朝食は朝練の後に食べることにして、机にあったパンをバックに突っ込んだ。

(これだけじゃ足んねぇかも…)

行きがけにコンビニに寄ることを計画にいれ、足早に家を出た。



季節が夏のせいか六時でも充分明るい。
しかし、外にいる人は少ない。

ブン太が見える範囲で三人程度しか見当たらなかった。

重たいテニスバックを背負いなおして少し走った。

途中、コンビニに入ると、ペットボトルとおにぎり、それとガムとチョコを買った。
これが朝食。
すぐに会計を済ませて外に出た。

先ほどより更に速度を増して走りながら、学校へ向かった。

ふいに見上げると、いつもは考えないようなことを思った。


(空、綺麗。…今日も晴れそうだな…)


その表情には少しだけ、悲しみが含まれていた。
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