立海(長編)
□恋、愛、恋愛、完全消去。
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「…ブン太なんて別に好きじゃねぇし」
遠くから聞こえた、大好きな人のその言葉。
――逃げることしか思いつかなかった。走りながら泣くことしか出来なかった。
一年前の春、運命の人に出逢いました。
彼は俺の1つ下で、でも俺より断然生意気でした。
「年上のくせに」と俺を馬鹿にするのが大好きな人でした。
俺は当時、それがとても気に食わなくて、大嫌いでした。
きっと、向こうもそうだったのだと思います。
俺のことを嫌いだったのだと。
だから俺たちは日々、殆ど毎日と言っていいほど、喧嘩をしていました。
誰に止められても、誰に怒られてもひたすら戦い…それが生きがいとでもいうぐらい、喧嘩をしていました。
内容は毎日違うけれど、毎日同じように下らないことでした。
「どっちが早く木の頂上に登れるか」とか
「昨日のテレビは8チャン見てなきゃおかしい」とか。どちらが先に吹っかけるか、なんて決まっていなかったけれど、喧嘩が絶えることはありませんでした。
「言わなきゃ喧嘩にならないのに」とお互い誰かしらに言われていました。
けれど、そういうものでしょう?
腐れ縁、犬猿の仲…表す言葉は何でも良いけれど、彼との出逢いはあまり良くありませんでした。
出逢ってからずっと喧嘩だらけの日々で、俺らはそれゆえ、自然と仲良くなりました。
1年違うとはいえ、部活では一緒にいて、昼休みは一緒に遊ぶような仲にまでなりました。徐々に喧嘩は減り、少しずつ仲良くなっていったのです。
それからの日々は、楽しくて仕方ありませんでした。
きっと、出逢ったあの日から仲良くなりたいと思ってたんです。
俺は本当の気持ちを隠して、喧嘩ばかりしていたのだと思います。
仲良くなってからは、ひたすらお互いの話をしました。
知りたかったからでした。
こうして俺たちは「喧嘩するだけの仲」から「よく知る友人」になったのです。
けれど、笑顔の多い日ばかりじゃないってことを知りました。
ある日、俺は彼と久しぶりに喧嘩をし、それが大喧嘩へと発展してしまったのです。
きっかけは以前と同じく至極下らないこと。