白石蔵ノ介小説企画『毒と薬。』
□君が僕を愛してた。
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千歳を好きになってから、俺は毎日のように千歳の隣にいた。
自然な素振りで、何事もないように。
誰にも気づかれないように、千歳の隣というポジションに立っていた。
自分でも完璧すぎる演技だったと思う。
好きだなんて思わせず、それでも一番近くにいる。
それが幸せだった。何よりも幸せなことだと思った。
告白したのは千歳の方。
俺のことが好きだと告げて、俺もこくりと頷いて。
そして振ったのは俺の方。
もう嫌だと告げて、千歳はにこりと笑って。
「ばってん…そぎゃん白石のこと…好いとったと」
嫌だった。
千歳のことばかり考える自分が。
他の何よりも千歳が好きで、千歳がいればそれだけで満たされて。
俺の全ては千歳の為にあったといっても過言ではなかった。
そして、そんな俺が一番恐れたこと。
「千歳が…俺の隣におらんようになったら…どないしよう?」
それが怖かった。支えをなくした自分が生きていけるのか、と。
それならば、いっそ。
そう思った俺の選択肢。
馬鹿な間違い、過ち、勘違い。
結局別れた今でも俺は千歳のことしか考えてないのだから。
「好き」
全てを賭けて千歳に向かって全力疾走して。
そしてその先が、この結果。
もう二度と届かない、いらない思い。
捨てられない、思い。
――僕も君を、愛してた。