白石蔵ノ介小説企画『毒と薬。』

□絶対に、涙は。
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その時やっと気付いた――いや、思い出した。

自分は1人で生きていたんじゃないということを。


苦しいって思うだけで何もしなかったのは自分の方。

辛いって感じるだけで何も言わなかったのは自分の方。


自分が勝手に塞ぎこんで、誰にも言えずにいた、それだけ。

「周りが分かってくれない」と苛立って、分かってほしいと苛立って。


何も言わずに伝わるわけがない。

俺がしていたことは子供みたいに待ってるだけだった。


泣いて、それに気付くことが出来た。




「辛いねん…もう嫌やねん。何でこないなことせなあかんの?何でこないな思いしてまでせなあかんの?嫌や、嫌や…。俺はもっと…」





愚痴吐いて、涙をボロボロ流して。

ダサい自分見せるのが嫌で嫌で仕方なかったのだけれど。


一度吐けば、泣けば、止まらなくなる。

吐きだせるだけ吐いて、涙が枯れるまで泣いた。


それまで何も言わずに俺の言葉を聞いてくれていた、彼が。



彼の素直な言葉が。



「ずっと頑張ってきたこと、知ってる。支えにはなってやれんけど、手ぐらい握れるとよ?」



――俺を救ってくれた。




きっと俺を助けたかった。
でも俺に泣いて欲しかった。

素直になれない俺に、素直になれる場を作ってくれた。




気付いたら俺、支えられてた。



――限界の向こうがこんなにも眩しい場所だとは、思わなかった。
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