白石蔵ノ介小説企画『毒と薬。』
□走り続けると決めた日。
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「まさかこの程度で諦めるとか言いはるんやないですよね?本気やったら歩き続けなアカンですよ?ペース落ちてもええから、歩き続けなアカン」
「財前…」
言われて白石は「はっ」とした。
自分は今、諦めかけていたということに気付いた。
実際、謙也に断られた瞬間には「もう駄目や」という思いしかなかった。
だが、財前の言葉を聞いて思い返す。
自分がどれだけ謙也を好きだったか。
どれ程の思いを謙也に注いでいたか。
それは、たった一度断られたぐらいで捨てられるようなものではなかった。
「アンタは一人やないんやし。俺やっておんねん。一応、応援してるんすわ。謙也さんと部長が長く築いてきた絆もあるんやろ?」
「…せやな。おおきに、財前」
白石はずっと謙也のことが大好きだった。
同じ気持ちを謙也も持っていてくれたらいいと思い、告白した。
けれど、それは叶わなかった。
それでもチャンスがないわけではないと白石も思う。
自分だって長い時間掛けて謙也のことを好きになった。
謙也が同じ思いになってくれるのに、長い時間が掛かったっていいと思う。
それに気付かせてくれたのは財前だった。
「ほんまおおきに、財前。俺…一回言うてもうたから…次が最後のチャンスかもしれんけど、今度は絶対上手くいくよう頑張るわ。財前も良かったら協力してな?」
「…それでこそ部長やわ。アンタは幸せにならなアカンっすわ」
パンっと小気味いい音が鳴り響いた。
それは白石と財前が掌をぶつけあった音。
「これが最後のチャンスで構わへん。掴み取ってみせるで」