04/20の日記

18:58
風由←夏
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「あっ…」

伸ばされた手を避けきれず、仮面を取られる。
開けていく視界に恐怖が込み上げ、ぎゅうと目を瞑った栗尾根はけれど、目元の感触に固まった。

「っえ…?」

行き場を失くして曖昧に空気を掻くのはせめて隠そうと上げた両手で。

「ちょお涼野、何すんの?」

後ろから栗尾根の目元を覆ったのは涼野の手らしい。
浦部の不満に、やっと状況を理解した。

「あの、風介様…?」
「静かに」

栗尾根にしか聞こえないよう小さく言われて素直に口を閉ざす。
薄く瞼を開ければ仄暗く、それでも遮断し切れない赤や橙の光が目に入った。
ああ良かった、まだ見られていない。

(だって、)

素顔を晒すのも、素顔を見た周りの反応も。

(まだ、こわいっ…!)

左手で彼のユニフォームの裾を掴めば、指先でするりと目元を撫でられた。
誰にも気付かれぬ応答にほっとする。

「嫌がっているだろう?」
「これからチームメイトになるっちゅーに顔も見せてくれへんの?」
「ダイヤモンドダストでも私と女子二人しか由紀の素顔は知らないが」
「ぇえ!?」

見せずとも伝わる驚愕はもう慣れたものだ。
好奇の視線から庇うように、目隠しをしたまま栗尾根の顔を引き寄せる。
そうして涼野は彼女の頭を抱え込むようにして肩口に額を埋めさせ、前髪で横顔も隠した。
目隠しを解いて下ろした腕で腰を抱き、反対の手は栗尾根の背に添えられる。
視界が閉ざされたままの栗尾根は一瞬体勢を崩しかけるも、己を支える温もりを感じるや否や安心して身を委ねた。
そんな二人を見て、うわ、と浦部が顔を輝かす。
次に、ははーん?と器用に片眉を上げた。

「あんたら、もしかして付き合っとんの?」

にんまりと三日月型に弧を描いた口に、涼野は柳眉を少しだけ顰めさせる。
栗尾根を抱き締めて隠す涼野の様子から邪推したらしい。
しかしそれも仕方ないと野次馬の一人である緑川は思った。
心配そうに眼を眇める涼野の仕草や、安心し切っている栗尾根の雰囲気からして、何とも云えぬ艶が有るのだ。
というか、ダイヤモンドダストのメンバーは相思相愛すぎて、別に付き合っている訳でもないのに見ている此方のが居た堪れなくなる。
育った環境は大して変わらない筈なのに、如何して彼らのチームだけがあんなに――などという疑問は、もう今更すぎる程に暴ける機会を逃していた。
少なくとも知っているのは、涼野が栗尾根と倉掛と御氷をエイリアへ連れて来た事だけ。

「付き合ってはいない。だが大切であることは否定しない」
「ふーん?」


「とにかく由紀が見せるまで待て」



黙って縮こまり、涼野に助けられている自分を雷門の皆は如何思っているのだろう。
高々顔を見せる如きで臆病だと呆れられただろうか。仲間になる筈なのに素顔も見せないなんてと嫌われただろうか。
そう思うと恐ろしくて涼野から離れられない。
でも自分を包む温もりが酷く優しくて、如何しようもない安堵で涙が零れた。
それに気付いた涼野はまたあやすように背を撫でて、ついと視線を流す。
怜悧な双眸に射抜かれた熱波はびくっと躯を震わして一歩後退った。

「クララから聞いている」

何を、とは訊けなかった。

「貴様、私がいない間に随分と好き勝手やったようだな?」

ぴくり、栗尾根が反応する。
熱波が雷門へ引き抜かれるまでの、涼野がいない間、栗尾根へどんな風に言い寄っていたのか。
随時報告するようにと頼んで良かったと思ったものだ。
以前雷門にまで泣いて頼って来た彼女の姿を見て尚、全く懲りずに行ったらしき猛アタックの数々。



大丈夫だ、と優しく耳に囁かれ、恐怖と緊張と不安とで強張っていた躯から力が抜けていく。
有難うございます、と擦れた声で呟けば、優しく頭を撫でられた。


*****
書き掛けのガゼリオ←ネパ(?)。
風介と夏彦が既に引き抜かれている設定で、今度は由紀が引き抜かれてきたよ!っていう話。
余白は書けなかった部分。

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