04/23の日記

12:01
ガゼルと細氷女子
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声を押し殺せても、涙は止め処なく溢れ出して。
ただ、成す術も無く泣いた。
暗い部屋で座り込み、存在を確かめるように手を取り合い、リオーネとアイシーは只管祈った。

いつか覚める夢だと知っていた。
泡沫の時間はもうすぐ終わる。

思い出が寂しくて、胸が苦しくて、心が痛くて、遣る瀬無さに押し潰されそうだった。
選ばれたトップの勝負は終わり、誰よりも父を愛した青の彼女は激昂の果て全てに泣き叫び。
変わらぬ愛を奥底に宿す緋の彼はただ愛しいと悲しげに微笑んで。
想いばかりがすれ違っていた父との柵は、着々と解かれていく。
画面は既に沈黙していて、遠い向こうで喧騒が聞こえる様な気がした。
引き返せない。逃げる事なんて疾っくに諦めていた。
辛うじて笑顔は浮かべられる。ただ、笑えなかった。

内部からの決壊は外部からの接触に因って治されていくのだろう。
食い違いだらけで成長なんてしていない。籠っていただけだったから、いけなかった。
そう思うにはまだ大人じゃなくて、全てをその所為にするにはただの子供じゃなかった。
でも、これで何を得られたと問われれば答えられなくて。
けれど確かに幸せだった…これは本当。嘘じゃない。
特別を欲するが故の努力は結果を残し、一致団結の絆は孤独を拭い去り、人の感情とはここまで凄いのだと思い知った。
だってこんなにも切なくて哀しくて、言い訳なんか思い付かない程に切羽詰まっている。

長い長い年月の欲望は、今、終止符を打たれようとしている。

温もりが欲しくて、リオーネの背後からクララが頬を寄せた。
口先よりも確かな想いを鼓動が伝えていく。このまま溶けあえたらどれだけ楽か。
じんわりと移るその体温に、涙の冷たさに、鍛えても尚柔らかい躯に、たまらくなって…強く抱き合った。
もがき続けるにはもう遅い――はぐらかす日々は滑稽で愚かしいと、誰かが憐れむのだろう。

「…クララ、リオーネ、アイシー」

静かな声に三人はびくりと躯を硬直させた。
そろりと顔を上げた先、佇むガゼルにまた涙を零す。
触れたくてそっと手を伸ばせば応えてくれる優しい冷たさに、如何しようもなく泣きじゃくった。

離さないでと言ったのは誰だったか。
貴方だけはと縋ったのは誰だったか。
信じたいと、希ったのは誰だったか。
偽りを嫌う彼はただ頷いた。



さよならを唱えた
(無垢な願い)(求めた先の、末路)

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ジェネシス戦直後の。
≪生きる為に≫とはまた違ったやつです。

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