□想いの矛先
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「ガゼル様」
「ん、」

ぴたりとバーンは動きを止めた。
黄金の瞳が瞠られ、揺れる。
やがて燈った炎は黒く黒く歪み始めた。

「(何で、)」

自分と彼女の付き合いは決して短くない。
そんなバーンでも、ガゼルのこんな表情は、一度も―――

ギリッ

「(…ムカつく)」

あいつらには気安く触れさせて、あいつらとは普通に喋って、あいつらには心からの笑顔を向ける。
いつもの声なのに、いつもの口許を薄く綻ばせるだけの表情なのに。
俺だって聞いたことも見たことも有る筈なのに。
何もかもが――特別だった。

「――ガゼル」
「…何だ、バーン」

振り向いた彼女は氷のような無表情。
立場上一度頭を下げた眼鏡野郎も、彼女程じゃないがすっと感情を読ませなくした。
刹那の切り替えの理由は気付いてるし知ってるしわかってる。
“女だから”と侮られない為だと。
知ってるし、わかってるのに。
如何しようもなくムカついて、嫌で、悲しい。
ずっと望んでるガゼルの笑顔が、俺に向けられることはない。

「………」
「バーン?さっさと用件を言え」
「…いや、何でもねえ」
「ならば呼び止めるな」
「おー、すまねえな」
「ふん」

高飛車な態度。
それがらしくもあり、俺の苛立ちを助長させる。
俺はグランやあいつらみたいに、ガゼルが幸せなら良い、なんざ言えねぇ。
自分が幸せ掴めてねぇのに何で他の幸せを与えられる?

「アイキュー、午後の事だが…」
「はい、午後は――」

段々遠くなる華奢な背中を眺め、踵を返した。

今もその刹那であいつは微笑む。
俺じゃない、ダイヤモンドダストの奴らに。
どの瞬間よりも綺麗に、美しい表情で。

なぁ、俺があいつら以上に愛せば、護れば、仕えれば、お前の本当の笑顔を見せてくれるか?



想いの矛先
(その想いはあいつらを護る為の武器で在り)(俺を傷付ける凶器でも在った)
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