□そしてバットエンド
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走り去る風の背中を見送ってから、開けっ放しの扉から室内に足を踏み入れる。
其処には案の定、晴矢の姿が。
但しその表情は風と正反対だった。

「毎回懲りないねぇ、君達」
「可愛いぜ?甘えんの失敗して傷付いた時の表情(かお)」
「…。晴矢って何気に鬼畜だよね」
「あ?」

ニタァ、と(決してにこりでもニヤリでもなく)笑った晴矢に溜息を吐く。
獰猛というか、物騒というか…いつかDVになりそう。
あれだよ、嫉妬が過ぎて監禁とか。
…うわ、何か洒落になんない。
どうしよう。
――尚更、渡せないなぁ。

「いつまでもそうしてたら、僕が貰うから」
「は?やんねぇよ。つかあいつが俺以外に惚れられんのか?」
「さぁ?」

もうずーっとずーっと前からの恋だし。
恋、っていうかもう愛かな?
よく続いてるよ。
それだけ風が愛情深いってことなんだけど。

「ダイヤモンドダストの子達に対する態度、ってか慈しみも物凄いし。一時期嫉妬しちゃってたもんねー、晴矢が」
「うっせ。とにかく有り得ねぇよ」

でも、そろそろ心配になってきてたんだよね。

「どうだか。風次第で関係なんて簡単に変わるさ」

だってさぁ…あんな場面に遭遇しちゃうと、ねぇ?

「晴矢」
「あ?何だよ、っ!?」

面倒くさそうに振り返るその胸倉を掴み、強引に引き寄せて。
瞠られた金を見据え、嗤う。
焦点のぶれるギリギリで、鼻先が触れ合いそうな距離で。

「僕ね、人間を快楽で縛るの、御手のものなんだ♪」

嘯く僕は晴矢にどう映ったのかな。
炎は常に揺らめくから解らない。
だから硬質な氷とは相性が合うんだよ。
善くも、悪くも。

「奪えるよ?――君から」

ただ、らしくなく呆然と立ち尽くす彼に笑いが込み上げた。
背を向け、緩む口を抑えようともせずに廊下を歩く。
途中すれ違ったウルビダに気持ち悪いって顔顰められたけど気にしないしめげない。

「ふふっ」

ねぇ晴矢。
その【愛する人を失くすかも知れない恐怖】に、風は毎日晒されてるんだ。
今この瞬間だって、そう。
もう見ていられないんだよ。
毎晩毎晩、君を想い自分を責めて静かに涙を流す、傷だらけの風を。
あれだけ可愛がっているダイヤモンドダストの子達の声すら届かなくなった、虚ろな風を。

「馬鹿だ、」

風の愛はね、少しでも扱いを間違えれば風自身が壊れちゃう程、一途で純粋で濁り無くて、それ故にとても危ういものなんだ。
扱いに関しては正直ダイヤモンドダストの子達の方が晴矢よりもよっぽど上手い。
そこまで思い、自嘲する。

「晴矢も――僕も」

僕だって結局は風を壊してしまうんだろう。
真綿で包み込む、なんて愛し方は知らない。
独占欲も凄く強い。
だから、きっと傷付けてしまう。
ああもう、どうすればハッピーエンドになれるだろう。



そしてバットエンド
(言うなれば勝者は深遠なる冷気)(氷の姫を最も正しく幸せに愛せる者達だった)
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