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□獣はどちら?
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いつもの日常だった。
幼馴染に朝起こしてもらい、自転車を二人乗りで登校して、次当たる!と焦る彼女に結局は答えを教え、昼は屋上で食べ、適度にサボりつつ授業を終えて部活へ。
それも空が藍に染まる頃には果たし、帰路に着く。
いつもの日常だった。
「…なぁ」
晴がふと、静まるまでは。
「何だ」
前を行く晴が立ち止まる。
つられて立ち止まれば、彼女は厭にゆっくりと振り返った。
「風介」
囁くように名を呼ばれる。
「俺、知ってるぜ」
炎のように揺れる、夕焼けで透く紅い髪。
「はる、」
「俺が」
私の知らない、色を孕んだ女の声。
絡められた指で手の甲を撫でられる。
どうした、と声で訊けなかった。
「欲しいんだろ?」
橙を藍が侵食していく景色の中で、綺麗に弧を描く唇が妖しく光る。
くらくらと眩暈がした。
粗暴さを棄てた仕草で絡まる腕。
金縛りに遇ったように体が動かない。
互いの額がくっつく程に顔を近付けられ、細まった金の瞳が私の瞳を覗き込む。
血の味がした。
獣はどちら?
(喰らう女豹)(喰われる贄)