□雨と傘
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雨の日。
何となく街をぶらついていた。
雨粒でよく見えないショーウインドーや人の雑踏の間をすり抜けて、ただ目的地も無く歩いてく。
ふと目に留まった蒼みがかった銀色に振り向けば、雨宿りしていたのは涼野くんだった。
湿気からかボリュームのある髪は少し寝ていて、相変わらずの無表情だけれど、立ち尽くす姿と相俟ってどこか泣いているように見えた。
それに何故かちょっとした焦燥に駆られ、一歩踏み出す。
傘を持ち直したところで、けれど小さな影が見えた。

「ふーすけお兄ちゃん!」

涼野くんを呼ぶ幼い女の子。
多分…7、8歳頃だと思う。
お日さま園の子かな?

「(瞳子監督の後を継いだの、本当だったんだ…)」

今更実感が沸く。
声を掛けるタイミングを失って、でもどうしてか二人を見てから帰ることにした。
ぱたぱたと駆け寄るその娘は、涼野くんの少し手前でべしゃっと転んでしまった。

「(あ、痛そう…)」

慌てて起こした涼野くんがハンカチで手足の汚れを拭う。
顔は何とか大丈夫なようだ。
泣きながら抱き着いたその娘を宥める涼野くんは凄く優しい表情で、その微笑みにちょっと驚いた。
さっきまで無表情で、しかも泣いてるみたいに見えてたから、余計に。

「(…どうするのかなぁ…)」

傘はその娘が差していた物しか無いし、子供用だから二人入るには小さすぎる。
そう思っていたら、涼野くんは買い物袋を片手に持ち替えて、空いた腕でその娘を抱き上げた。
慌ててしがみついたその娘が、多分涼野くんに言われてだろう、傘を差す。
傘で隠れて見えなかったその表情は、先程まで泣いていたというのにとても嬉しそうだった。
何か良いものを見た六月の午後。



雨と傘
(ふふっ、後で涼野くんに電話してみようかな?)(それともお日さま園に行ってみようかしら)
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