□20年越しの恋
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きゃあきゃあと子供達の声が響き渡る。
此処、お日さま園はいつも通りの日常を綴っていた。
園長の腕を引っ張り、遊んで!と強請る笑顔。
それに微笑み返す園長は、そんな子供達が愛しいと言葉なく伝え、子供達もまたそれに育まれていく。
優しく小さなその箱庭に、雛だった鳥が訪れたのは、空が少し朱くなった午後のことだった。

「――…お久しぶりです」

振り向いた先、門の一歩手前には一人の女性が佇んでいた。
切り揃えられた藍色の髪が風に揺れる。
何かを察したのか、子供達は園内へと戻っていった。

「君は、…」

ふ、と。
残像が蘇る。
昔、まだ私が瞳子さんの手伝いとしてお日さま園にいた頃。
皆懐いてくれていた中でも、特に好いてくれていた女の子がいた。

「わたしせんせーのおよめさんになる!けっこんしよー?」

無邪気で無垢な可愛らしいそれに、私は何と返したのだったか。
確か――

「20年、やっと経ちました」

艶やかに細まる黒灰の瞳。

「わたしももう大人です」

彩りを乗せた唇が、綺麗な弧を描く。

「あの時の言葉がまだ有効であるのなら、」

――嗚呼。

「『20年後にまたおいで』」

無意識に呟いていたそれに、彼女は目を瞠った。

「憶え、て…!」
「うん。――久しぶりだね、クララ」

彼女――クララは、泣きそうに笑った。



20年越しの愛
(遠いようで近く)(待ち焦がれた時間)
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