□王子を恐れた眠り姫
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「いやよ」

華奢な手を強く握り締め、離さないと繋ぎ止める。
何で何でどうして何故?
思考には疑問だけが渦巻いていた。
答えなんて欲しくないのに――だってもう絶望を感じたくない。

「クララ、」
「嫌!ガゼル様もいなくなりそうなのに、!どうして貴女まで…!!」

いやいやと首を振る。
それに合わせて、切り揃えられた藍色の髪が揺れた。
視界の端に映る黄色の髪飾りは、貴女が進言して、ガゼル様が買って下さった贈り物。
わたしの大切な宝物。
ねぇ、貴女は、わたし達に物を贈ったその手で、いつかあの憎き男への物すら選ぶのかしら。

「どうしてよ、あんな男の何処が良いの?良い所が有ったとしてもわたし達には敵わないでしょう?それなのに貴女はあんな男を選ぶというの?」
「クララ…!」

宥める声に、びくり。
情けなくも肩が跳ねる。
手を振り払い、数歩、後退った。

「何よ、どうせあの男を選ぶのでしょう、なら優しくしないで、躊躇わず切り捨てて。出来ないとは知ってるわ、わかってるわ、でも苦しいの」

じわじわ滲む視界で、優しくて甘い彼女は此方に手を伸ばそうとして。
弾かれたように、わたしはそれから背を向けて、逃げ出した。
初めて、呼び声を無視した、瞬間。



ふらふらと覚束ない足取りで、どこか儚く、まるで蝶のように彷徨う。
いつの間にかキッチンへ来ていたクララは、何かの作業をするフロストの横に力無く座り込んだ。
抱えた膝に顔を埋めて、彼のエプロンの裾を掴む。
身を丸める彼女を、けれどフロストは邪魔だなんて思いはしない。
暫くして、ぽつりと呟かれたそれに耳を傾けた。

「…もっと、心理学を学べば良かった」
「………」
「そうしたら、あの男に傾くあの子の感情を少しでも抑えられていたかもしれない。もっと上手く妨害出来ていたかもしれない」
「………」
「………」
「………」
「…ねぇフロスト…」
「………」
「今からでも、遅くないかしら」
「…さぁな」
「ガゼル様も、リオーネも、取り戻すわ」
「………」
「わたし達が一番。それを永久にする為に。――協力してくれる?」

差し出された細い手を、フロストは無言で取った。



王子を恐れた眠り姫
(茨を斬るな、乗り越えるな)(此処は鎖国の氷城)
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