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□雨宿り
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ざあざあと景色を濡らす雨。
地面に叩き付けられた雫が高く低く跳ねた。
生温い湿気が曖昧に肌を撫でる。

「…ふぅ、どうしようか」

濡れないようにとヘッドフォンを鞄の中へ避難させた音村が呟く。
ただ何となく散歩に出掛け、何故か三人集まってサッカーをした帰りにこの土砂降り。
慌てて屋根のある場所へ入り、現在進行形で雨宿りしていた。

「すぐに止みそうにもないしな…」

マントを腕に掛けて持ち、鈍色の雨空をゴーグル越しに見上げる。
此処に入るまで傘代わりに使用したので結構濡れてしまった。
水を含んだそれは些か重い。

「…凍てつかせる?」
「「いやダメだ」」

ガゼルが手に氷晶を創り、冷気さえ纏い始めたのを見てストップを掛けた。
凍らせたら雨は氷雨に成る。
氷雨はもっと厄介だし、寒くなるだろう。
これ以上気温が下がれば流石に風邪を引いてしまう。
それは避けたい。

「そう、」

本気ではなかったのか、あっさりと冷気を消す。
けれど氷晶は消さず、暇潰しなのか様々な形に変え始めた。
六花、雪だるま、サッカーボール、星などなど。
氷の結晶はきらりと煌めき、見る分にはとても美しい。

「音符は出来る?」
「ん、」

次々に変わる氷晶を楽しげに見ていた音村の要望にガゼルは微かに頷く。
薔薇だったそれに一瞬冷気が覆ったかと思えば、氷晶は音符の形をしていた。
渡されたそれを持ち、色んな角度から眺める。

「綺麗…」

何処から見ても美しい。
雨に濡らしても溶けず、雨粒も凍らない。
絶妙な加減は流石ガゼルと言ったところか。
ふいにガゼルは鬼道に顔を向けた。
何だ、と問う鬼道に、無表情のまま淡々と告げる。
こてん、と首を傾げる仕草は幼い。

「君は?」
「…良いのか?」
「ん、」

頷いたガゼルに暫し悩む。
いや、何にしようかは決まっているのだ。
が、それを言うのが恥ずかしい。
笑われる…と思う。
音村には。
意外と揶揄いもする奴だから。
そこまで考えて、じっと待つガゼルの視線を感じ、半ば無意識に言っていた。

「…ペンギン、は出来るか、」
「皇帝ペンギン?」

一つ瞬いた蒼の瞳が答えを促す。
ああ、と頷けば、また冷気が氷晶を覆って。

「………!」
「はい、」

五匹の皇帝ペンギンが“皇帝ペンギン2号”の始めの隊列で並んでいた。
礼を言って受け取る。
予想以上に可愛い、と鬼道は無意識に嬉しさ溢れる笑みを零していた。
それを見たガゼルと音村がつられて微笑むのと、それぞれの迎えが来たのはほぼ同時。



雨宿りと氷晶
((すまない))←鬼+音
(遅い)←ガゼル
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