ss

□天然のS
1ページ/2ページ


ふと目が覚めた。
窓から差し込む月明かりが灰色がかった宵闇を仄かに照らしている。
見慣れた天井を見上げること約数分。
ぼーっとする頭で何となく上半身だけ起き上がり、ブロウは周りを見渡した。
今日は皆と一緒に寝たから、当然室内にはダイヤモンドダスト全員がいる。

「(………ガゼル様を中心にして囲むように雑魚寝したんだったか…)」

月明かりで丁度良い具合に照らされていた時計を見れば、午前四時。
すぅー…、とそれぞれの寝息は空間へ溶けゆき、静寂を壊さない。
この微睡みがブロウ、否ダイヤモンドダスト全員のお気に入りの一つだったりする。
ふ、と緩く笑って、ふいに違和感。

「…?――ガゼルさま…?」

見当たらない。
独特な蒼銀の髪も、眠っている時でも冷気を纏う体も、傍にいると安心する気配すら。

「(…こんな時間に何処へ…)」

何故か不安に駆られ、そして数時間後の己の苦労を減らす為、布団から脱け出す。
こうして全員で寝た翌朝、ガゼル様がいないと色んな意味で暴走するメンバーなのだ、ダイヤモンドダストは。
主に己とフロストとベルガとゴッカ以外。
アイシーは半ば錯乱して泣くし、クララはまずバーン様やグラン様へ呪いを掛け始める。
曰くこういう事には何かしら二人が原因の可能性が異様に高いから、らしい。
否定出来ないのは仕方ないだろう。
リオーネとアイキューは寝起きなのも手伝ってか警察へ連絡し出すし。
ドロルとバレンは取り敢えずアイシーを泣き止まそうとするが、あまりにも泣き止まないので不安を煽られつられて泣いてしまう。
そして己はクララ、ベルガはアイシーとドロルとバレン、ゴッカはリオーネとアイキューを止める役目。
口で言うと簡単そうだが、これが結構体力を使うのだ。
因みにフロストは自分達がそうしている間に我関せずで一足早くガゼル様を捜しに行く。
まぁ、ダイヤモンドダストで一番早くガゼル様を捜し出せるので問題ない。

「(…少しは手伝って欲しいと思う時も有るけどな…)」

はぁ、と溜息を吐き、他の皆を起こさぬよう慎重に歩いて、そーっと扉を開け、廊下へ。
長く続く廊下は酷く無機質で一瞬躊躇ったものの、ガゼルの不在に対する不安が勝り、ブロウは意を決して足を踏み出した。
そんなに遠くへ行くのも流石に嫌なので、一番近い中庭へ降り立ってみる。
薄暗いが徐々に明るみ始めている空の下、静寂を奏でる中庭。
緩く吹いた妙に温い風が、

「……っ…!」

余計、不安を煽った。
ざわつく胸を抑えながら、その名を呼ぶ。

「……ガゼル様…?」

きょろきょろと行方を探れば、驚くほど簡単にその姿は見つかった。
池の、すぐ傍の茂み。
その奥、ちらちらと見える蒼銀をガゼル様の髪だと確信付け、近付く。
するりと肌を撫でる冷気。
ガサガサと茂みを掻き分け、出た所に案の定ガゼル様はいた。
音で気付いたのだろう、ガゼル様が振り向く。

「ぶろうか…?」

拙い発音で呼ばれ、取り敢えず駆け寄った。
眠たそうに瞳をぱしぱしと瞬かせ、うつらうつらと、けれど必死で起きている様子に安堵する。
今回はガゼル様の気紛れか。

「目が覚めたらいなかったので、心配しました」
「………、…ああ…すまない」

物凄く眠いらしい。
これは半分寝ているな、とブロウは苦笑した。
どうかしましたか、と問うと、ガゼル様はゆるりと下を向く。

「いや、な…これ、」

視線で指し示すソレ。
見た目だけなら酷く可愛らしく温かそうな、何かの塊だろうか?
見掛けで判断するのは止して、触ってみる。
あ、氷の結晶だ。
珍しい。
今は上旬と云えど立派な春だ。
まだ溶けていなかったのか。

「バーンに女装させ飾り付け自由を奪った上でプロミネンスの練習場に放置したらどうなるのだろうか、と思って」
「ぶっ!」

眠たさが多く孕む、柔らかな声。
だが放たれた言葉は、それに似合わず極めて――…その、何と言うか、悪戯心溢れるもので。
そんなバーン様を見つけたプロミネンスと、見つかってしまったバーン様の反応を想像して、思わず噴き出してしまった。
あのプロミネンスのことだ、盛大に笑って写真に納めその後散々遊び倒すのだろう。
主に女子が。
バーン様は言わずもがな。
ぷるぷると震えながら耐える。
蹲りつつも只管耐える。

「(ふ、腹筋がっ…!)」

ガゼルは相変わらず眠たそうな表情のまま、ことりと幼い仕草で首を傾けた。
何故ブロウが笑っているのか分からないらしい。
それでいい、とブロウは治まる兆しを見せない笑いを抑えながら思う。
どうかこのままで。



天然のS
(珍しく必死で眠るのを我慢してまで考えることがバーン様なのが気に喰わないけれど)(取り敢えず腹筋がヤバい)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ