ss

□恋は盲目
1ページ/2ページ


「バレン、」
「?あ、ガゼル様」

ふいに後ろから声を掛けられ、バレンはその方角へ顔を向けた。
長く続く回廊だけれど、足音は比較的に小さい。
振り返った先、ガゼルの姿に内心首を傾げながらどうかしましたか?と尋ねる。

「頼みたい事が有るのだが…」

今、大丈夫だろうか。
問うガゼルへ、大丈夫ですよと答えようとして、けれどそれは遮られた。

「ガゼル様!」
「…クララ?」
「どうした?」

ぱたぱたと小走りで二人へ駆け寄り、バレンの隣に並んだクララ。
立ち止まってから一旦一息吐き、浮かべられたのはどこか困ったような、申し訳なさそうな微笑みだった。

「申し訳ございませんが、バレンはこれからわたしと出掛ける予定なので、他に頼んで頂けないでしょうか?」
「えっ」

思わず、といった風に声を上げたのはバレンだ。
そんな予定、無かった筈――…。

「そうなのか?バレン」
「あ、いえ…」

不思議そうに己を見つめるガゼルの瞳に、バレンはもごもごと口を噤む。
だって横から突き刺さるクララの視線が恐い。
そっと耳元で囁かれる、淡々と笑みの孕む脅し。

「バレン?」
「ぅ…わかったよ…」

今回ばかりは主語無しでも伝わる自分達がほんの少し恨めしく思う。
大方、荷物持ちなんだろう。
あと男避け。
ガゼルの死角、クララが咲かせた笑顔の圧力に、バレンはあっさり負けた。

「はい、そうです…すみません」

がっくりと小さく項垂れながら言ったバレンに、首を傾げつつもそうか、と頷く。
大して気にした様子も無いガゼルに、念には念をと話題を変えクララは笑顔で誤魔化した。

「ガゼル様、何か承りましょうか?」
「…じゃあ、アイスと何か冷たい飲み物を頼めるか?」
「アイスと飲み物ですね、分かりました。ではわたしのオススメを買って参りますね」
「オススメ?」
「それは買ってきてからのお楽しみに…」

人差し指を軽く唇に添え、悪戯っぽく笑うクララを見てバレンは思う。

「(可愛いのに…)」

何でこんなに黒いんだろう。
その黒さと可愛さ故に、敵わないと決めつけ逆らうことを無意識に放棄していることに、バレンは気付いていなかった。



恋は盲目
(盲目すぎて恋とすら気付いていない)(デートをしたいと言っているのに…何故気付かないの)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ