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□風邪にご注意
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今日はダイヤモンドダストとプロミネンスの合同練習。
グラウンドに行くと、両チームは既にウォーミングアップを済ませ軽く蹴り合いをしていた。
何故遅れたのかと言うと、グランに捕まり円堂守に対しての変態論を聞かされ、先程やっと解放させたのである。
全く以て迷惑だと、愚痴りながら早足に着いて、

「……?」

ガゼルはぴたりと足を止めた。
歩く時と一緒で一切の迷い無し。
視線はリオーネに固定されている。

「ガゼル?」

それに気付いたバーンが声を掛けても無視。
スタスタとリオーネへ近付いていく。

「リオーネ、」
「、ガゼル様」

何でしょうか?と尋ねる言葉を遮り、ガゼルは告げた。
何事か、と視線が集中してるのも無視である。

「体調を崩しているだろう」
「え、」
「動きが普段より少しぎこちなかったから分かる」

すっとリオーネの額(仮面)へ伸びる手。
けれど仮面に触れる寸前、その動きはぴたりと止まった。
不自然な位置で止まった手は、数瞬の後に腕組みで引っ込められる。
どうしたのかと皆が首を傾げる中、ガゼルはダイヤモンドダストの面々へ視線を向けて。

「…アイシー、確かめてくれるか」
「はーい」

一番近くにいたアイシーが名を呼ばれ軽やかに駆けてくる。
アイシーに場所を譲る為、其処から二、三歩離れるガゼル。

「ちょっとずらすね」
「…ええ、」

少しだけ仮面を下にずらし、露になった額へ、アイシーは背伸びをして自身の額をくっつけた。
リオーネもそれに合わせて少しだけ屈む。
こつんと額を合わせ熱を測る二人を傍目に、バーンはガゼルの隣へ移動した。
リオーネの素顔を見れるかもと期待し見事玉砕したネッパーが視界の隅に見えたが気にしない。
なぁ、と声をかけ、けれど視線は何となく二人に向けたまま。

「何で止めたんだ?」
「私では全員高温に感じる」

ああ、と納得。
平熱が34℃代のガゼルには、確かに全員の体温は高く感じるのだろう。
対すバーンは全員低く感じる。
平熱37℃代なのだから仕方ない。

「熱っぽいよ、休んだ方が…」
「これくらい大丈夫、」

心配するアイシーにそう言ったリオーネの躯を、唐突に冷気が包み込んだ。
反射的に肩を抱いて震えたリオーネ。
ガゼルはすっと瞳を細めて、冷気を消す。
…今の冷気は、普段よりも温めだった。
それなのに寒く感じたということは。

「…リオーネ、休め」
「っ、…はい」

その声色に驚いたのはプロミネンスだった。
命令のような言い方だが、不思議とそうは思えない。
蕩けるように優しく、蜂蜜を垂らしたように甘い、真に心配している声。
僅かに下がっている眉がより一層それに拍車をかける。
偶々、というか声に惹かれるようにガゼルの瞳を見てしまい、そしてプロミネンスの女子は一気に赤面した。

『(何って表情してんのよ…!!)』

心中一部抜擢である。
そんなプロミネンスの心中など分かる筈も無く、ガゼルはリオーネの手を取り歩き出す。
行き先は医務室だ。
リオーネの歩調に合わせてゆっくりと進む様はぶっちゃけ格好良い。

「申し訳ございません…」
「謝ることはない」

グランに捕まった為に一度別れた時は問題なかった。
恐らく運動したことに因って急に上がったのだろう。
周りが気付けなかったのは仕方ない。
サッカーを始めると集中力が半端ないのだから。
それをどうして咎めようか。

「ですが、自己管理が出来ていなかったからで…」
「反省しているのなら良い。今は休むことに集中してくれ」

今は丁度季節の変わり目だし、普段から冷気に中っているのだ。
熱はまだしも風邪を引くなというのが無茶である。
淡々と言うガゼルは、最後に爆弾を落とした。

「早く元気になって笑顔を見せてくれればそれでいい」



風邪にご注意
(え、今さらっと殺し文句まがいな発言が聞こえたような…!?)(ちょ、動じてないってことは慣れてんの?これ日常茶飯事なわけ!?)
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