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□ゆーび切った
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ふと、目が覚めた。
夜明け直前の、空が色彩を薄くさせてきている時刻。
隣にはガゼル様。
別に疚しいことなどしていない。
ただ添い寝をしてるだけ。
確か昨日、ちょっと話していて、そのまま眠くなって寝てしまったんだったか。
微睡みに揺蕩いながら、深呼吸をする
一昨日から心がざわざわと落ち着かない。
そっと寝返り背を向け、足を片腕で抱えて、赤子のように体を丸め、胸元の服を握り締める。
原因は簡単。
一昨日、あの雷門イレブンが、ガゼル様を引き抜きにやって来たから。
ガゼル様は強いから、チームに欲しいと言って。
ふざけるなと叫びそうになった。
お前達が求めるよりも私達の方がよっぽどガゼル様を必要としているのだと。
ガゼル様は他ならぬダイヤモンドダストのキャプテンなのだと。
結果としては勿論私達が勝って、雷門イレブンは去っていったけれど…。
雷門イレブンが去った後に感じたのは、心に鉛のような物がつっかえているみたいな苦しさ。
その日の夜、アイシーとクララも同じ感覚を覚えたのだろう。
アイシーは「嫌だ」と呟きながら少し泣いて、クララは何を言わずとも張り詰めた空気を纏っていて。
ドロル達もどこか不安定で、迷惑だと分かっていたけれどガゼル様に頼んで皆一緒に寝た。

「…――、…」
「…。…りおーね…?」

はっと顔を上げて、顔だけ振り返る。
身じろいだ私の気配に目が覚めてしまったのか、ガゼル様が薄らと瞼を開けて私を見ていた。

「…どうした…?」

訊いてくる声色の優しさに、泣いてしまいそうだった。
もぞもぞと寝返って、ガゼル様と真正面から向き合う。
そうして脳裏を過ぎる一つの悪夢。
あの様子じゃ雷門イレブンはまたやって来るだろう。
もしその時、私達が負けて、ガゼル様を奪われてしまったなら…。
あぁ嫌だ。
不安は増すばかりで、嫌な予想だけが脳を支配する。

「…ガゼル様は、」
「…」
「ガゼル様は――いなくなったり、しませんよね?」

答えが欲しいのか欲しくないのか分からない問いを発した声はか細くて、震えていた。
一昨日の試合だって正直ギリギリだったのだ。
あの時、ガゼル様が気に懸けている雷門のFW――名前は吹雪だったか――のシュートをベルガが止めていなかったら…負けていただろう。

「リオーネ、」
「、!」

ぎゅっと痛いくらい抱き締められて、髪を梳くように撫でられる。
服越しにじんわりと私を包む、冷たくて暖かい、不思議な温もり。
この冷たい温もりが失くなったら…。
恐ろしい予想に体を震わす。

「私はダイヤモンドダストのキャプテンだ」
「………」
「その他になるつもりは無い」
「っ、…!」

ただ事実をなぞるような声色に、くしゃりと表情を歪めてしまった。
仮面を嵌めていない今、そんな私をガゼル様は容易く分かっただろう。

「…指切りしよう」
「え…?」
「約束。ほら、」

優しく手を取られて、お互いの小指を絡ませる。

「ゆーびきーりげんまん、」

小さく、囁くように唱え始めたガゼル様に、つられて口ずさんだ。

「「うーそつーいたーらはーり千本飲ーます、」」



ゆーび切った
(嘘にしないで)(嘘にしないよ)
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