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□昼寝
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とある日の昼下がり。
エイリア学園、サッカー練習場に隣接する広い庭をバーンは何となしに歩いていた。
今日は珍しく練習が無い。
偶には一日中体を休めなければ、という吉良の配慮である。
だがそう言われても暇で仕方ないバーンはじっとしていることさえ無理で、こうして暇潰しに散歩していたのだ。
ダラダラとただ足を進めていると、ふとある一角に悠然と存在する大樹が目に留まった。
影が複数…幹の所に誰かいるらしい。
ちょっとした興味でその大樹に近付く。
着けば、其処にはダイヤモンドダストのメンバー。
木陰で仲良く昼寝をしている。
大樹に凭れ座りながら器用に寝ているのが右からブロウ、アイキュー、ベルガ、ゴッカ、フロスト。
真っ直ぐに投げ出されたベルガの脚を膝枕にして眠っているのが六人。
右脚はドロル、ガゼル、バレンで、左脚はアイシー、クララ、リオーネだった。
すー…という呼吸音がバラバラだが聞こえて、熟睡しているのが分かる。
しかも六人は三人同士手まで繋いでいて。

「(そう言やぁこいつら。喧嘩とか滅多にしない程仲良いんだったな)」

と、しょっちゅうレアンなどと喧嘩してはヒートに苦労をかけているバーンはしげしげと眺め、暇潰しに面々を観察することにした。

「(ブロウは普通だな…げ、眼鏡野郎またんな分厚い本読んでたのかよ)」

アイキューが持っているのは大きく分厚い参考書のような本。
頁が開いたままということは、読んでる中に寝てしまったらしい。
勉強の何が楽しいんだか、と表情を苦くさせる。
因みにアイキューの呼び名が≪眼鏡野郎≫なのは、単にガゼルといつも一緒にいて仲良いのが気に喰わないからだ。

「(ベルガとフロストって寝てんのか?顔隠れてるし変わんねぇしわかんねぇ…ゴッカも普通だな…いや、鼾かかねぇのが意外だけどよ)」

大樹に凭れ座っている面々を観察し終わり、次は膝枕組に視線を移す。

「(リオーネ、仮面外さねぇのか?蒸れるだろ普通…クララとアイシーも普通か)」

女子組は特に目立った所など無く、次は膝枕男子組の方へ周る。

「(こいつらは全体的に女顔だよな…)」

バレンは女顔が嫌でマスクとペイントしてるって聞いたし。
ドロルをぎゅーっと抱きしめたいとか言っていたボニトナの言葉を思い出す。
ボニトナ曰く、ドロルは母性本能を刺激させられる少年特有の可愛らしさをふんだんに持っているだとか。
ガゼルは…睫毛長いし肌白いし顔整ってるし、こうして見ると可愛いし綺麗だよなぁ…。

「(って俺今何て思った!?)」

うがあああと心の中で大声を上げ、髪を掻き毟る。
思っちゃいねぇ思っちゃいねぇガゼルを可愛いなんざ思っちゃいねぇ綺麗だとか思っちゃいねぇ(エンドレス)
只管自己暗示。
その行為こそがガゼルに対しそう思ったことを明確に表しているのだが…幸か不幸かバーンは気付かない。

「(つかマジで仲良いなこいつら。しかも位置が…)」

ガゼルが真ん中なのは、まぁこいつらを見ていれば分かるのだが、クララがガゼルの向かいなのは多分、相当な冷戦が有ったんだな、と思った。
だってガゼルはエイリアの数あるチームの内、一番自身が率いるチームの女子に凄く愛されてる。
アイシーは無邪気にガゼル大好き!だし、リオーネはさり気なくガゼル第一だし、クララなんてヤンデレだ。
俺は揶揄われたり喧嘩したり普通に馬鹿って言われたり…何だこの差。
よく考えりゃバーラだけじゃねぇか、俺に対して普通なの。
女子の違い…というか女子からの扱いの差に地味に落ち込むバーンは、それが愛故だと気付いていない。
因みにグランは若干揶揄われたりはするが基本的に慕われている。
普通に仕事仲間だ。

「…バーン様?」

どうかしましたか、と声を掛けられ、はっと我に返る。
ガゼル達から顔を上げると、ガゼル達を膝枕していたベルガの姿。
いつの間に起きたのか、と驚く。
顔上半分が隠されているから分からなかった。

「よぉ、」

一応挨拶とも言えぬ挨拶をすれば、律儀にもこんにちは、と返ってくる。
それ以上会話が続く筈もなく沈黙。
暫く静寂が続いたが、やはり居心地が悪くなってきた。

「なぁ、ガゼルが起きたら言っといてくれ」
「何と?」
「『俺の部屋に来い』って」
「…分かりました」
「宜しくな」

部屋へ帰る道すがら、ふと思った。

「(ベルガと話したの初めてじゃね?)」

今更である。



昼寝
(っつーか俺には滅多に手繋がせねぇのに)(ムカつく)
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