ss

□占い
1ページ/2ページ


アイシーにやれと教えられた、占い。
好きな人を後ろから呼び止めて、振り返る程度で脈アリかどうかを診断するもの。
全身で振り向いたなら脈アリどころか両想いになる可能性が高く、顔だけなら普通、振り向かなかったら脈ナシ。
つまり振り返る面積の大きさが此方への好意度ということだと言う。
教えられている途中で速くもしないと決断は出ていた。
名を呼ばれれば振り返るのは当然のマナーで、振り返らないのは余程声の主が嫌いなのか…あ、もしかして、だからなのだろうか?
逆に言えば全身で振り返るのもあまり無い気がする。
相手が話をする為に近付いてきたなら向き合うが、これは呼び止められた時点での体勢で判断するもの。
声を掛けられただけで全身で振り向く確率はほぼ皆無…。
そこまで考えて、何をやってるんだと中断した。
こんな事に何故思考を巡らす必要がある。
信憑性の無いもの、と断ったのだが、試して損は無いと押し切られてしまった。
有無を言わさず談話室から追い出され、勢い良く締まる扉。
そしてカチャという施錠音。
試しにノブを回しても扉は頑なに開かない。
小さく溜息を吐き、顔を上げて、

「!?」

思わず上げそうになった声をリオーネは咄嗟に抑える。
仮面をしているにしては広い視界の先、一人で気怠げに歩いているガゼルがいた。
タイミングが良いのか悪いのか…。

「(…まさか、アイシーが謀った…?)」

いやまさか、と否定しつつも疑いが晴れないのは何故だろう。
浮かんだニヤリと笑うアイシーの残像を振り払う。
疲れてるんだ、そうに違いない。
で、だ。
そろりとガゼル様の後ろ姿を見る。
自分で言っておいて何だが、ちょっと…やって、みたい気も…。

「――…ガゼル様、」

少しの躊躇を好奇心が上回り、気付けば呼び止めていた。
大きくない、寧ろ小さすぎる声だったのに、ちゃんと聞こえたらしい。
ガゼル様がゆったりと振り返る。
ふわりと美しい髪が揺れ、先ずは顔。
次に私でも細いと思う左肩が此方側に動いて、――…!?

「リオーネ?」

はっと我に返った。
視界の真ん中で、ガゼル様が不思議そうに少しだけ首を傾げながら此方を見る。
私へ向いた体勢は、ほぼ全身――…

「(っ!!)」

かああ、という音が聞こえるのは自分だけであって欲しい。
顔に集まった熱を必死で冷ます。
ただの占いだ、信憑性も無い。
第一ガゼル様は教養深いから、相手の目をちゃんと見て話されることを大前提とされている。
背後から呼び止められれば相手に向き合うのは当たり前なのだ。
尤もな言葉で自分に言い聞かす。
そうでもしなければどうにかなってしまいそうだ。

「どうした?リオーネ」

無言の自分へ、もう一度問われる。
怪訝そうな蒼の瞳に、何かを考えるよりも早く言っていた。

「っ…あの、これからどちらへ…?」
「食堂だが?」

あ…と言われて気付く。
もうそんな時間か…。
自覚したからか、急に体が空腹を訴えた。

「もし良ければ、ご一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」
「ん、」

こくん、と頷いて歩き出したガゼルの一歩後ろでついて行きながら、ふとガゼルの横顔を見遣る。
………いやいや、まさか、ね…。
この時程仮面の有難みを感じたことは無い、と後にリオーネは語った。



占い
(望みは、有るのだろうか…?)(有って欲しいと願う私も大概だが)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ