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□とりあえず、
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「私は、強くないといけない。強くなきゃ、」

目許に腕を置き、光を遮断する。
ゆらゆら点滅する光と、じわり揺蕩う闇。
瞳の機能は瞼を閉じても止まることは無い。
眠ってもそれは同じで。
そろそろと手を下げた。
橙や黄色、白ともつかない光の彩が瞼を灼く。
どんどん色を加え、彩を取り込んで。
腕は次に口許を隠していた。
馴染む視界。
不自然に歪んだ情景。
嗚呼、泣いてるのか、私は。

「………」

静かに静かに、ただ静かに涙を流す。
嗚咽は漏れない。
先程の声も震えておらず、今でさえ無表情のまま。
瞳はとろんと蕩けていて。
淡々とした蒼はもっともっと潤み、ゆるゆると深くなる。
いつか見た綺麗な海の色みたいだと思って、すぐに否定した。
だってそんなのよりも余程綺麗で穢れてて澄んでいて美しいと思ったから。
ガゼル様は、高慢で我儘で気高くて、自分勝手だけれど不器用に優しくて、脆くも強いひと。
沢山やる偽善よりも、少ないけれどちょっとずつやる善を選び、それでもただ自分に正直なひと。
嘘を吐いてまで自身を護る、臆病で大胆なひと。
強くなければ生きる資格など持ち得ないという、エイリア全員の養父からの教えを未だ忘れ去れないひと。
容易に触れられれば激痛の凍傷を負わす、危険な絶対零度の氷。
他の誰が何と言おうと、それこそどんなにダメな存在かを証拠ずらりと並べたてながら証言しようとも。
我らダイヤモンドダストにとっては至高の存在なのだ。

「ガゼル様、」

返答は無い。
代わりに抱き締められた。
体温の冷たさは、血が通ってないんじゃないかと一時期本気で心配し慌てふためいた程で。
いっそ我らの熱を奪って生き延びて下さいと、本気で思って言ったことさえ有る。
流石に絶句されて殴られて説教を喰らったが。
平手じゃなくて拳な辺りに本気を感じたものだ。
けれど今でもそう思っているとガゼル様に言ったなら、今度はどうなされるのだろう。
優しく緩く抱き着かれたまま、服を濡らす雫がまだ止まらないと思ったまま。
何より、ガゼル様の温もりとも言えない温もりを感じながら。
そのまま、寝た。



とりあえず、
(一緒に寝ましょう。我らダイヤモンドダストは)(意地でも貴方を独りにさせませんから)
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