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□真夜中のお月見
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ふと月見をしたくなったんだ。
今宵は満月。
雲は少なく、風は夜にしては暖かい。
一人もそれはそれで良いのだが、こんなに月が綺麗なのだから、と内線で他の面々も呼んで。
場所は広すぎる中庭。
普段は見えないのに、今日は何故かその満月が一番美しく見える。
先着は発案者である私。

「あっ、ガゼル様ー!」
「俺達が一番乗りですか」

背後からの声に振り向けばアイキューとアイシーの姿。
他の面々も続々と集まってきた。

「結局全員揃いましたね」

ゴッカが笑う。
言葉通り全員揃った所で、鼻を擽る匂い。
もしかして、と面々を見渡せば。
彼らも同じ事を思ったのか、手に持った物を同時に見せ合う。

「あ、」

思わず、と噴き出したのは数人。
嗚呼、やっぱり。
全員、揃いも揃って団子を持参して来た。
月見と言えば団子。
考える事は皆同じらしい。
それに全員、顔を見合わせ笑い合って。
いざ月見をしようとして、停止。
シートなどと言った物を持って来ていないのをブロウとベルガが呆れたように笑って、腕に抱えたビニール袋からそれらを出した。
ダイヤモンドダストでこういう必要な者を持って来るのは専らこの二人である。
最早暗黙の了解だ。
各々好きなように座り、邪魔にならない場所に荷物を置いて。
先ずは、と空を見上げる。
緩やかな風は雲を流し、瞬く星は過去の輝きで夜空を飾って。
仄蒼く煌めく満月は悠然と宵闇を照らしていた。
ほぅ、と知らず感嘆の溜息を吐く。
美しい。
その一言に限るほど。

「きれい…」

クララがぽつりと呟く。
他の皆も同じくうっとりと空に見惚れていて。
呼んで良かった。
そう思った。
みたらしや餡子、黄粉独特の甘い香りが漂って。
暫くして賑やかに、けれど静かに笑い声や話声が響く。
他の、既に就寝している者達を起こす訳にはいかないのだ。
幾ら広い中庭と言っても、夜の静けさが相俟って聞こえてしまうだろう。
その事に気を付けながら、それぞれが思い思いにこの時間と空間を満喫する。
私は月や皆を眺めながら団子を食べ、クララとブロウとアイシーは何かクイズをして遊んで。
ドロルとアイキューは星座を探しているらしい。
ゴッカとベルガは静かに何かを話していて。
ただ月を眺めているだけのフロストにバレンやリオーネが団子を薦め、フロストは礼を言って受け取っていた。
そうして二時間ほど経った頃だろうか。
ふいにアイシーが慌て出した。

「あれ?え、うそ」
「どうしたの、アイシー」
「此処に有ったお団子が無い…!」

此処、と示すはアイシーの右斜め後ろ。
色取り取りの団子が纏めて置いてあった所のすぐ傍だ。
バレンと話す為に横を向いていて、実際はすぐ隣に置いておいたのだろう。
きょろきょろと探すのをリオーネが手伝い始める。
そんな中、え、と声が上がった。

「…ドロル?」
「…ごめん。俺が食べちゃった…」

しゅん、と申し訳なさそうに頭を下げる。
アイシーの近くに座っていたからそのお団子にも近いという事で、誰も食べてないと思って食べてしまったと言ったところか。
沢山有るからと数えていなかったのが盲点だったな。
三色団子…と落胆の色濃く呟くアイシー。
よりによって一人一個の三色団子か。
最後に食べようと取っておいていたらしい。
ぽんぽん、とアイキューがアイシーの頭をあやすように撫で叩く。
気まずいような空気に流れそうな所で、ふっ切ったのであろうアイシーが顔を上げた。

「…ま、良いわ。過ぎた事はしょうがないもの」

ほっと、でもやっぱり申し訳なさそうに安堵するドロルへ、けれど続いた言葉。

「その代わり!」

何やら気迫有る声に、思わず姿勢を正したドロル。
そんな彼へアイシーはずいっと手を出す。

「ドロルの分の三色団子一個頂戴。それでお相子!」

いつものように明るく笑って放たれた言葉に、ぱっとドロルも表情を明るくさせ、三色団子を差し出した。
一件落着してほっと和らぐ雰囲気。

「あ、それ取って」
「はいよ」

「賑やかだな、」
「ああ、偶にはこんな風に過ごすのも悪くない」
「寧ろ心地好い…」
「同じく」

「「ぷっ、くすくすくす」」

それぞれが談笑して、ふいに落ちる静寂で月を見上げ、瞳を細めて。
ふふ、と自然に漏れた笑い声に、つられて皆が顔を見合わせ笑った。



真夜中のお月見
(翌日、寝不足で昼過ぎまで起きれなかったのは)(仕方ないと言えるだろう)
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