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□数多の色彩
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「動かないでねー」
「おう」

廊下の一角、見覚えのある二人にバレンは足を止めた。

「何してるんだ?二人共」
「あ、バレン」
「どうした?その荷物」

振り向いて笑ったアイシーに手を上げ応える。
質問に答えず訊き返してきたゴッカへ、別段気を悪くする様子も無く律儀に返答した。

「資料」

ああ、とその一言で理解する二人。
あれだ、コンプレックス克服の為の、格好良い顔に成る特集とか言う雑誌やら何やらetc。
別に怪しい通販でもないし自腹なのでいつもの事だとスルーし、アイシーは最初の質問への答えを言った。

「何か微妙な位置にちっちゃいゴミ付いてたから取ってあげてるの」
「オレじゃ取れなくてな…」
「だからか、その体勢」
「ああ」
「うん」

ゴッカがアイシーを抱っこしている理由が分かり、すっきりしたとバレンは一人頷く。
抱っこするされるは珍しくないが、そのまま移動もせずに何やらアイシーがゴッカの頭を覗き込んでいたので疑問には思ったのだ。

「あ、はい!取れたよ〜」
「おお、ありがとな」
「どう致しまして!」

笑い合う二人につられてバレンも笑みを零した。
目的を終えてもそのままで、他愛もない会話に花を咲かせる。
暫くして、ふいに聞こえてきた声。
それはブロウのもので、方向は談話室だった。

「おーい!出来たぞー!」
「あっ今行くー!」

時計が指し示すのは恒例のおやつタイム。
アイシーはぱっと表情を明るくさせる。
ゴッカの腕の中から脱け出し、空中でくるり一回転。
とん、と宛ら猫のような身軽さで華麗に降り立った。

「ん、十点満点!あたし先行くわね!」
「ああ、転ばないようにな」
「大丈夫!」

ゴッカに頭をくしゃりと撫でられ、擽ったそうに笑う。
少し乱れた髪を手櫛で整えながらパタパタと小走りで駆けて行った。
扉の向こうへ消えたその姿を見送ってから、バレンはゴッカを見上げる。
手に持つそれを軽く持ち直した。

「俺、コレ置いてから行くって言っといて。すぐだから」
「ああ、わかった」

さんきゅ、と言い、同じく小走りで去っていったバレン。
ゴッカも談話室へとゆったり足を向ける。
さて、今日のデザートは何だろうか。



数多の色彩
(何気ない日常が)(心を鮮やかに染める)
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