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□そう思わせて
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ある休日の昼下がり。
アイシーとクララはリオーネの部屋を訪れていた。
理由は至極簡単、持て余しているこの感情について。
同じようなそれを持っているのを感じ取り、何となく集まったのだ。
といっても特に会話をするでもなく、それぞれが自問自答を繰り返すだけ。

「…、…」

意味もなく咀嚼するお菓子は例に漏れずフロストが作ったもの。
うん、変に暗い方へ考えそうになるのを留めてくれている程に美味しい。
流石フロスト、と思うも束の間。
程なくしてまた思考を巡らす。

「「「(ガゼル様…)」」」

ふと気付けば注がれている優しさ。
驕りを与えぬ絶妙な甘さ。
惜しみなく満たしてくれる愛情。
それら全て自分達だけに下さいと思い始めたのは何時からだろう。
純粋な尊敬だけだと言えなくなったのは何時からだった?
三人は思考の海へ潜る。
心の大半を支配するガゼル。
いつの間にか、無くてはならない存在になっていた。
優しく緩く、けれども確実に。
真綿で締められている感覚にも似た、現状。

「………」
「………」
「………」

耳鳴りさえ聞こえる沈黙。
瞳を虚ろに彷徨わせ、リオーネは壊す。

「…恋、なのかしら」

この感情は、この想いは。
アイシーが抱き込んでいる枕を更に強く抱きしめ、うつむいた。

「…わかんない」

そう呼ぶにはまだ躊躇いがある。
だから。

「…違う、わ」

クララから零れ落ちた言葉に追従し、瞳を背けた。



そう思わせて
(今の関係が崩れてしまう、のなら)(このままが良い)
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