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□何故直で持てる…!?
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とある日。
鮮やかな暖色で彩られたエイリア学園の広大な庭の一角で、薄青な寒空へ向けて鈍色の煙がもくもくと立ち昇っていた。
微かに漂うのは何やら焦げ臭い匂い。
発生源を辿れば、それは火事でなく焚火だった。
そして焚火を囲み、小さな簡易椅子に座っているのはフロスト、ガゼル、リオーネの三人。
一見分からないが、フロスト以外の二人は期待を込めた眼差しで焚火をじっと見つめている。
熱いのが苦手で、勿論火の傍なんぞに近寄るのが皆無なガゼルは大きな氷晶を胸に抱いていた。
成る程、自身が狭い範囲に醸す冷気と合わせてそれで涼を取っているらしい。

「何してるのー?」

中庭に面した二階の窓から軽く身を乗り出し、アイシーが声を掛けた。
危ないぞと注意しつつ、アイキューも三人を見下ろす。
アイシーの声に気付いた三人の内、リオーネが逸早く二人を見つめて言葉を返した。
彼女に続き他の二人も二人を見上げる。

「焼き芋よ」
「焼き芋!?」
「その大量のさつま芋はどうしたんだ?」

焼かれている枝や葉はこの頃すっかり寂しくなった木からのリサイクルだろう。
フロストの傍には新聞紙の上に置かれているざっと三十個は有るだろうさつま芋。

「食堂行ったら沢山貰ったの。丁度小腹が空いてたから」
「ふーん…」
「へぇ…」

さつま芋での焼き芋は美味しい。
時期も秋だから合っている。
あたしも食べるー!と言い、アイシーは下に行く為の階段へ向かった。
あっという間に角を曲がって見えなくなった妹に苦笑し、アイキューは窓をきっちり閉めてから妹を追う。
同じように角を曲がれば、すぐにその姿に追いつけた。
後ろで手を組み、ゆったり歩きながらくるりと兄を振り返る。

「何か付けるの有るかな?兄さん」
「見た限りじゃ何も無かったぞ?」
「じゃあそのままかー…」

嫌か?と兄が訊けば、妹はんーん、と首を横に振り答えた。
何にも無くてもフロストがいるんだし美味しいでしょ、と。


ガゼルは焼き芋の下半分を包み紙で幾重にも巻き、上半分にふーふーと息を吹き掛けて必死で冷ましていた。
断言するが彼は猫舌なのに加え熱いものも持てない。
幸いダイヤモンドダストの中では比較的熱いものを持てるリオーネは手で一口分千切り、ちびちびと食べ進めている。
彼女の仮面は黒く塗ってある唇の処を開けることが出来るのだ。
からくり仕掛けのように顎の部分が下に下がる訳でなく、ただ単にその部分が四等分に割れ内側へそれぞれ引っ込んで開くだけなのでホラーではない。
その構造がどうなってるのか、アイキューが酷く知りたがっているのはさて置き。
だからと言っても仮面は仮面。
ドロルのように口許を覆っていない仮面ではないので傍目からは非常に食べ難そうだが、彼女は慣れた手つきで着実に消費している。
因みに同じく口許を覆っているバレンは最初から仮面を外す派だ。
一々仮面を外したり嵌めたりは面倒くさいというのが言い分である。
そんなリオーネの横で、もうそろそろ大丈夫かなと思ったアイシーが焼き芋を一口頬張った。

「っはふ、」

はふはふと熱を逃がす為に息を吐く。
白く燻る吐息は、突然吹いた緩い風に容易く散った。


きゃらん、しゃらん、と音が鳴る。
ガゼルの纏う冷気が無数の氷の粒になり、焚火に近付いては悲鳴のような音を鳴らして遠ざかるというのを繰り返していた。
ともすればきゃー!という笑い声のような悲鳴に、楽しんでいるな、とガゼルはぼーっと眺めながら好きにさせている。
信じられないとは思うが、ガゼルの能力で創られた氷には意志が有るらしい。
何故かはガゼル自身も分からない。


どんどん焼いていっているフロストは頃合いを見て火に棒を入れ、焼き芋を捜し当てて取り出していく。
猫舌な者が多くいるのでより早く冷ます為だ。
焚火の中で、パチパチと火の爆ぜる音が濃淡鮮やかな赤い色と共に聴こえる。

「お、焼き芋か」

もくもくと食べている五人の傍に寄ってきたのはバーン。
ガゼルは焼き芋を一口頬張り、ほー、と白い息を吐き出してからバーンを見ずに言い放った。

「やらん」
「即答かよ」
「残念だな」
「…言うくらいなら、くれよ…!」
「無理だから言うんじゃないか」

正論である。
切実そうな演技までしたのに(したから)バッサリと言い切られたバーンは、それでもフロストに目を向ける。
我関せずといった雰囲気を纏うフロストやガゼルとは違い、視線を向けられてもいない他の三人は何となく目だけで互いを見合わせた。
気まずいような、そうでないような。
フロストの横でほかほかと湯気を燻らす焼き芋が場の雰囲気と何ともミスマッチで、余計そう感じてしまう。

「ダメなのかよ」
「………」

二度目の問い。
あんまりにも食べたそうに焼き芋を見つめる彼に、ガゼルはむっすりと僅かに頬を膨らまし、ふいっと瞳を逸らした。
勝った!
バーンは内心で声高らかに勝利を掲げた。
焚火を周り込んでフロストの横に積み上げられた中から、焼きたてのものを選ぶ。
包み紙も巻かず直に持ったバーンに、ガゼルが信じられないと目を瞠ったのは仕方ない。



何故直で持てる…!?
(熱くないのか。いや熱くないなんて有り得ない…!)(ガゼル様ガゼル様、人それぞれですから)
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