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□もう一度だけ
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バーンは、ゆっくりと視線を巡らせた。
そこら中に散らばっているそれが煌めく。
きらきら、きらきら。
仄蒼いそれはガゼルが創る氷の破片だった。
一つの大きな氷を粉々に砕いたように、あちこちに飛び散っている。
今回は相当参っているようだ。
自分を攻撃しようとしてくる氷の塊を炎で溶かしながら思う。
音も無く相殺するそれらは水蒸気にも成れずに消えた。
ぐるりと三百六十度見渡して、足元に目を向ける。
眠っている彼女。
寝息すら聞こえない。
静かに、静かに、静かすぎて恐ろしく感じる程。
いつもは熟睡していても自分の炎に反応するのに、眠り続けている。

「…なぁ、あいつら、泣いてんぞ」

静寂。
ただ主を護る為に、氷がバーンへ攻撃を繰り返す。
すっと跪いてそれに触れた。
彼女と自分を隔てる氷壁。
薄いけれど硬く溶けないそれは棺の様で見たくなかったけれど。
酷く透明な氷壁は鏡になるよりも中を透かせた。

――彼女を、澄んだ蒼で飾りながら。

そのまま掌に力を集中させる。
炎が揺らめいても溶けはしない。
小さく舌打ちをした。

「ダメか…」

何度やっても、周りの氷は溶かせるのに、これだけは溶かせない。
ぶわりと熱気を撒き散らしても苛々は治まらない。
彼女に触れもしないのがこんなにもつらいだなんて思いもしなかった。
扉を隔てた室外に、複数の気配がいる。
ずっと、ずっと。
彼女が眠ってから、ずっと。
瞳を虚ろに彷徨わせ、ただ呟く。

――目を、醒まして――

希う声は伝わらない。



もう一度だけ
(眠るその顔は美しい)(まるで、無機質な人形のように)
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