あなたと

□16.不穏な空気
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かすかに感じる


不穏な空気




私を呼ぶ声が遠くに聞こえた。
聞こえるけれど、それに応えるような事は出来なかった。
口を開けてもカラカラに乾いた喉が張り付いて、か細い声しか出ない。


ハグリットが、なぜ。


アクルは私を見た途端に走り去って逃げてしまった。
逃げる理由もここにいる訳も分からない。

足が地面とくっ付いてしまったかのようにして動かない。


「、い、――……フレアっ!!」


右手に強い衝撃が。誰かに強く握られている。


「フレアッ…!!気付いたか!!」

「っ、え」


目の前いっぱいに広がるシリウス。
私はどうやらベッドに寝かされているようだ。どうしてここに。


「シリウス、どうして………ここは、どこ?」


シリウスは瞬時顔を歪ませて、作り笑いをする。


「…医務室だ。フレアは倒れたんだ、ハグリットが倒れたのを見て」

「また一週間も寝ちゃうのかと思って焦ったんだから…!!」


周りを見渡せばシリウスとリリー。さらにはジェームズとリーマスとピーターで、勢揃いだった。


「そう、なんだ…ごめんみんな。あのさ、ハグリットは?」


そういうフレアに、5人は顔を見合わせる。
初めに口を開いたのはジェームズ。


「元気だよ。ただ」

「ただ?」


聞き返せば、リーマスが悲しそうに顔を歪ませる。
嫌だ、そんな顔しないで。


「その時に起きた事をすっかり忘れてる」

「―……え」


何を思ったかフレアはベッドの下にあった靴を履いて、制服の上着を羽織る。


「ちょ、ちょっとフレアどこ行くの」


ピーターがあたふたと焦る。
いつも以上にキョロキョロしていた。


「ハグリットのとこ。私が倒れてどれくらい?」

「えっと…30分位かしら」


いきなりの事でリリーも困惑していた。
フレアは普段このように突発的に動かないので、全員が目を丸くする。


「ちょ、待てよ!!どうしていきなりそんな…」


そういうシリウスを押しのけて、ダッシュで森の方へと向かう。だが手首を捕まれて、進むことが出来なかった。



「待って。またフレアは何かを抱えているの?」

「僕たちには言えないほどの事なのかい?」

「………ッ」


リリーとジェームズの言葉に思わず息が詰まる。
彼らはフレアが少年を石にしてしまった事件から、こういった事に敏感に関わろうとする。


「でも…長くなるよ?」

「構わないわ、ねぇ?」


と周りを見渡すリリー。全員がコクリと頷き、満場一致でフレアの話を聞くことになった。


「…あのね、私小さい頃の記憶が無いの」

「………えっ…」


と声を漏らすピーター。他の四人も目を丸く見開いている。


「で、その原因が分からなくて…でも小さい頃の記憶全部って訳じゃないんだ、ある人と両親らしき人に関わる記憶が部分的に無いの」

「ある人って?」

「分かんない。分かんないから…ある人」


と目を伏せるフレア。何となく場に緊張がはしる。


「で、もしかしたらハグリットの記憶と関係しているかもって思って…。
それにアクルが逃げた理由も知りたいしね」


語尾を強めにして言うフレアに、リリーはフレアの手を握った。
優しい翠の瞳がフレアを見つめる。


「ありがとう、話してくれて。フレアがあまり自分の事を話さないから…凄く安心した」


ふわりと笑うその笑顔に、フレアも目を細めて笑う。
すると頭にぽんと手が乗せられた。


「じゃ、訳も分かったわけだし。俺らも行くよ」


とはにかむシリウスに、ジェームズも満面の笑み。
ピーターは相変わらずオロオロと、リーマスはうんうんと深く頷いていた。


「でも…この次夕食でしょ?大丈夫、私一人で行く」

「嫌、私も行くわ。お願い、良いでしょ?」


と先ほどの天使の微笑みを浮かべるリリーに、周りも同意する。
分かった、と笑顔を浮かべるフレアは、いつも以上に輝いていた。








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