士官学校編

□2.教官
1ページ/8ページ

古い建物の屋上。

錆びたフェンスは触っただけで崩れ落ちてしまいそうだ。

リザは確認のためにもう一度狙撃用の銃のスコープを覗く。

仲間の兵士たちも、指定の位置についている。

…準備は整った。



標的は人質を盾にして、落ち着かない様子で何かをまくし立てている。

もうかれこれ五時間ほどもこうして犯人グループは人質を盾に籠城している。

かなり体力的にも精神的にも参ってきている様子だ。

何がきっかけになって人質に危険が及ぶかわからない。



リザは時計を見る。

狙撃時間はあと五分後。

リザは銃を構える。




…深く深呼吸して、いつものように、一瞬だけ『あの人』を思い浮かべた。

あの真っすぐな目を…。




ゆっくりとまばたきをして、目を開ける。





頭の中がスゥッと冷えて、全ての思考が停止する。

目の前にある標的だけがただ存在するだけだ。





重力と風による誤差等考慮して照準を合わせる。

もう一度時間を確認した。

そしてトリガーに手を掛けた。







――――――――


士官学校の遠距離用射撃場。

リザは最終学年になったばかりだ。

リザはトリガーに指を掛けて、今にもそれを引こうとしていた。

「ホークアイ!!」

不意に真後ろから怒鳴られる。

耳にプロテクターを付けているにも関わらず、その怒鳴り声はリザ耳に大きく響き、リザが撃った弾は大きく的を外した。

舌打ちしたい気分でリザは振り返る。



撃つ瞬間に声を掛けるなど、礼儀にかなっていないと思う。

それがたとえ教官が生徒に対する態度だとしてもだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ