士官学校編
□2.教官
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古い建物の屋上。
錆びたフェンスは触っただけで崩れ落ちてしまいそうだ。
リザは確認のためにもう一度狙撃用の銃のスコープを覗く。
仲間の兵士たちも、指定の位置についている。
…準備は整った。
標的は人質を盾にして、落ち着かない様子で何かをまくし立てている。
もうかれこれ五時間ほどもこうして犯人グループは人質を盾に籠城している。
かなり体力的にも精神的にも参ってきている様子だ。
何がきっかけになって人質に危険が及ぶかわからない。
リザは時計を見る。
狙撃時間はあと五分後。
リザは銃を構える。
…深く深呼吸して、いつものように、一瞬だけ『あの人』を思い浮かべた。
あの真っすぐな目を…。
ゆっくりとまばたきをして、目を開ける。
頭の中がスゥッと冷えて、全ての思考が停止する。
目の前にある標的だけがただ存在するだけだ。
重力と風による誤差等考慮して照準を合わせる。
もう一度時間を確認した。
そしてトリガーに手を掛けた。
――――――――
士官学校の遠距離用射撃場。
リザは最終学年になったばかりだ。
リザはトリガーに指を掛けて、今にもそれを引こうとしていた。
「ホークアイ!!」
不意に真後ろから怒鳴られる。
耳にプロテクターを付けているにも関わらず、その怒鳴り声はリザ耳に大きく響き、リザが撃った弾は大きく的を外した。
舌打ちしたい気分でリザは振り返る。
撃つ瞬間に声を掛けるなど、礼儀にかなっていないと思う。
それがたとえ教官が生徒に対する態度だとしてもだ。