士官学校編
□6.涙
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リザは先ほど殴られたところに手を当ててみる。
鏡で見てみないとわからないが、じんじんと痛くて、ずいぶんと腫れあがっている感じがした。
唇の端を指で拭ってみると、血がついている。
口の中も少し切れている様だ。
口の中は血の味がして、首から上は衝撃の為まだクラクラとしている。
怪我をした左足首が、蹴られ更に無理を強いた為、痛み以外の感覚がなくなる程だった。
…だがそんな痛みよりもリザの心を占めていたのは…自分の周りの人間をあんな風に侮辱された事だ。
そしてそれに対して自分が何ら意味のある事を言えなかった事。
あんな風にして体を組伏せられて、抵抗できなかった自分への失望感もあった。
さっきから手の震えがどうしても治まらない。
ディオにのし掛かられた時の、その恐怖感、嫌悪感。
涙を堪えるのに必死だった。
そんな自分は、所詮はディオがいつも言うとおり、馬鹿な女でしかないのかと思うと悔しくてならなかった。
リザは何往復かして、やっとの思いで図書室まで荷物を運ぶ。
図書室には時々訪れていが、ここはリザの家の書庫と同じ匂いがした。
本と埃の匂いだ。
図書室には司書はおらず、室長と呼ばれる60歳過ぎの穏やかな男性が、いつもカウンターの中の椅子に座ってその役目をしている。
今日はその姿は無い様だ。
図書室の中にはリザの他に誰もいなかった。
リザはダンボールを引きずるようにして運ぶ。
中はみな専門書ばかりだ。
自分が判る分だけでも本棚に戻そうと、その専門書の棚がある部屋の一番奥の棚へ向かう。
リザはダンボールから本を取り出しては、分類別に分けて本棚に戻していった。
「…ここに寄っていってくれるなんて嬉しいな。」
しわがれた声。
室長が戻ってきたらしい。
誰かと話しながら図書室に入ってくる声が聞こえた。
「私もずっと室長に会いたかったんですよ。」