修業編
□2.朝
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早朝、リザはロイの温かい腕の中で目を覚ました。
目の前にはロイの胸がある。
冬の早朝、冷たい朝の空気と一緒に、ロイの肌の匂いをかぐ。
ロイの規則正しい寝息。
リザは無性に眠っているロイにキスをしたくなる。
でも、指先でそっと頬に触れるだけで我慢した。
―現実に戻らなくては。
リザはぼんやり考える。
これから家に帰って、シャワーを浴びて、朝食を食べて、出勤するのだ。
淡々と起きてからの段取りを考えて、ため息をつく。
二人が会うのは、ロイの部屋であることが多かったが、泊まってしまった日でも決してそこから出勤したりはしない。
私物をロイの部屋に置くこともしない。
リザは一度家に帰って、気持ちを仕切直す必要があった。
私たちは、恋人同士ていうわけではないのだ。
――私たちは近づきすぎてはいけない。
そう考えてから、ゆっくりロイの腕から抜け出しベッドから出る。
静かに服を身に付けてから、もう一度ロイの顔を見た。
毛布を首の所までかけ直して、きれいな黒髪を撫でた。
愛犬の寝顔にそっくりだ、と思ってリザは少し笑う。
そして時計を見てから、静かにドアを開き部屋から出て行った。