短編小説

□ブラックハヤテ号の献身
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真夜中…。

ぼくもリザもぐっすり寝ていた。

静かな夜で、サワサワと静かに降る雨の音だけがしていた。

突然横で眠っていたリザが目を覚ます。

その気配でぼくもすぐに目が覚めた。

外で車の音がする。

雨に濡れた道路をゆっくり走るタイヤの音が聞こえた。

どうやらこのアパートの目の前の道路に駐車した様だ。

暗闇の中、リザは横になり目を開けたままじっとしている。

…なにか迷っているのかな?

しばらくの間、リザはそのままでいた。

瞬きもしない。

やがて起き上がり、カーディガンを着てショールを羽織る。

そして窓を開けて外を見た。

「大佐…」

リザは呟いた。

リザはキッチンへ行って湯を沸かし、温かいお茶を煎れる。

ぼくはリザの足元に寄って行って、リザを見上げた。

「ハヤテ号。…ちょっと、外へ行ってくるわね。すぐ戻ってくるから。」

クーンと鼻を鳴らすと、リザはぼくの頭を撫でた。

…自分を勇気づけるように。…って感じたのは、ぼくの気のせいだったのかはわからない。





外へ出て行ってから、リザは30分もしないで部屋に戻ってきた。

最近どうしても気にいって珍しく奮発して買った、手触りの柔らかい大きなショールが無くなっている。

今日はやけに生暖かい夜だけれど、カーディガンだけじゃさすがに寒そう。

どうしたの…?

リザ…。

リザは手に空のマグカップを持っている。

もう冷たくなっているはずのそのマグカップを両手で大事そうに持ちなおした。

ぼくはリザの顔を見る。

リザは立ったまま、そのカップを見つめている。

何も感じていない、…とでも自分に言い聞かせているのかな。…表情を変えないように、リザは努めている。

この部屋にはぼくしかいないのに。

ぼくはリザの服の裾をかじって引っ張った。

するとリザはぼくが足元にいたことに今気がついたようだ。

リザはぼくに微笑む。

…哀しい微笑み。




「…こんなことはね。何でもない事なのよ。ハヤテ号。」
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