短編小説
□雨
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…ここはどこだ?
砂と岩。
照りつける太陽。
焼けた土地。
…ここは、イシュヴァール?
墓標、墓標、墓標…。
辺りにはおびただしい数の墓標が立っている。
土を盛って、板切れを立てただけの墓。
焼けただれた丘の向こうまでそれは広がっていた。
その異様な光景に、ゾクリと悪寒が走る。
「これは…」
思わず呟く。
「ロイさん。」
背後で聞き慣れた…、しかしその声よりは若干舌足らずで、頼りない声か゛聞こえた。
振り向くと…
「…リザ。」
やはり、そこにはあの頃のリザ。
髪は短く、私を見る瞳はまだ幼い。
真っ白なワンピースを着た彼女。
彼女の瞳の奥を探したが、彼女の瞳には罪の証の色はなかった。
…彼女は人を傷つける術を知らない。
…なのに、何故そんなにも悲しい顔をしているのだ?
「リザ。…何故君がここに…?」
リザはその透明な美しさで悲しげに微笑する。
見ると、彼女の手は泥にまみれ、爪には土が入り込み黒くなっていて、指先には血が滲んでいる。
よく見ると、彼女が着ている白いワンピースは、泥で汚れていた。
まさか…この墓標は…
「…君がこの墓を造ったのか?」
私が恐る恐る尋ねると、リザはコクリと頷いた。
「何故君が…」
「…まだまだ沢山造らないと。」
リザは振り返る。
…そこには…
死体の山。
焼死体や、銃弾を撃ち込まれた死体。
振り向いて私の顔を見たリザの瞳に、透き通る涙が一筋流れ落ちる。
涙を流したリザは、今にも消えてしまいそうな儚い美しさをたたえていた。
その薄い鳶色の瞳が、美しければ美しい程、私は自分の罪の深さを感じる。
…聞こえるはずのないうめき声が聞こえた。
「…貴方と私が殺した人達ですよ。」