士官学校編
□2.教官
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リザが振り向く前に、肩を強く掴まれて後ろを向かされる。
「なんですか?」
リザは冷静に聞く。
相手は明らかに激怒している。
「時間が過ぎているだろう!?早くどけ!!」
銃器専門のディオ教官だ。
ディオは40代半ばくらいの年齢。
黒い縮れた髪。肌は浅黒く、髭が濃い。
下品な口元には射撃場だというのに煙草をくわえている。
でっぶりと太った体系からはとても現役の兵士だった頃の彼は想像できない。
細く、人を疑い、裏側まで覗き込もうとする様な目。
彼は苛々と掴んだリザの肩を押して、そこから退けようとする。
「私は15時まで時間を取っている筈ですが。」
リザは怯むことなく、自分の肩に置かれた手を振り払った。
射撃場の時計はまだ14時45分を指している。
「口答えをするな!!…女がいくら射撃の練習をしたところで時間の無駄だ!!
早くどけ!!」
ディオ教官は、気に入らない生徒、―特に女生徒に多い。―に何かと辛く当たる。
苛めぬかれて自主退学まで追い詰められた女生徒がいたのもリザは目の当たりにしていた。
リザは反論しようと口を開きかける。
「…おいおい。ディオ教官。俺の生徒をあんまり虐めないで欲しいんだが。」
その時、背後から軽い調子の声が聞こえた。
少々抑揚の付け方がわざとらしい。人をバカにしたようなしゃべり方。
リザは振り返る。
「…スティングレイ教官。」
リザの狙撃クラスの専門教官だ。
軽いものの言い方とは裏腹に、冷めたような印象を人に与えるその薄い青色の瞳のすぐ横には、刃物による傷跡がある。
金の短髪、整った顔立ちの割には身だしなみには無頓着で、顎にはいつも無精髭が生えている。
まだ20代後半の年齢の彼は、一年前まで現役の狙撃兵だった。
背はリザの頭一つ分程高く、鋭く鋭敏な動作や体付きは未だに現役の兵士を思わせる。
だが一つ、彼の右肩から下は全く動かない。
常に右腕が邪魔にならぬよう、皮製のアームホルダーで吊っている。
リザを狙撃クラスに推薦したのは彼だ。
通常、士官学校の訓練で教えられるのは狙撃の基本までだ。
特殊な専門知識が必要なのと、機密性を要する狙撃手は少人数制の特別クラスで養成される。
それは通常の訓練と並行して行われていた。
「女に狙撃を教えた所で無駄なだけだぞ。スティングレイ。」
女性を差別視しているディオは、当然リザのことも良く思ってはいない。