士官学校編
□3.頑なな心
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…右腕が疼いて仕方がないな。
椅子に寄りかかりながら、スティングレイは左手で右腕を揉んだ。
「片付かないから、さっさと飲み終えて行っておくれよ。」
学生食堂で長年働く愛想の欠片も無い職員。
スティングレイがここの生徒だった頃からこの食堂で働いている。
「…おばちゃん。」
スティングレイはそう呼んでいる。
「はいはい、わかったよ。もう行くから。」
相変わらずの仏頂面だ。と思いながらスティングレイは答える。
「なぁ。リザ・ホークアイって生徒知ってる?」
スティングレイはついでのように尋ねてみる。
「知ってるよ。」
テーブルを拭きながら答える。
彼女はこの全寮制の士官学校の、全ての食事に携わっている。
そういえば、昔から彼女は食堂のカウンターの奥から生徒の事をよく見ていた。
「…彼女を見てどう思う?」
テーブルを隅々まで拭くと、無愛想な声は答える。
「さぁね。何をそんなに焦っているのか…。必死すぎて少し周りが見えていない様な気がするね。」
「…。…ああ。」
「…でもいいコだよ。食にはそんなに強くないようだがね。
…皆、食堂で働いている私達のことなんざ、空気みたいなもんだと思っているようだけど、
あのコはよく礼を言ってくれるよ。『美味しかったです。』ってね。」
「ふ〜ん。」
スティングレイは頷いてからゆっくりと立ち上がる。
「ありがと。おばちゃん。」
「ダグラス・スティングレイ。…あんたも。ちゃんと食べなよ。」
食事時にやってきて珈琲しか飲まないスティングレイへの言葉。
彼女にとって、未だスティングレイもまた士官学校の生徒と同じ様なものだった。