士官学校編

□3.頑なな心
2ページ/8ページ

…右腕が疼いて仕方がないな。

椅子に寄りかかりながら、スティングレイは左手で右腕を揉んだ。

「片付かないから、さっさと飲み終えて行っておくれよ。」

学生食堂で長年働く愛想の欠片も無い職員。

スティングレイがここの生徒だった頃からこの食堂で働いている。

「…おばちゃん。」

スティングレイはそう呼んでいる。

「はいはい、わかったよ。もう行くから。」

相変わらずの仏頂面だ。と思いながらスティングレイは答える。


「なぁ。リザ・ホークアイって生徒知ってる?」

スティングレイはついでのように尋ねてみる。

「知ってるよ。」

テーブルを拭きながら答える。

彼女はこの全寮制の士官学校の、全ての食事に携わっている。

そういえば、昔から彼女は食堂のカウンターの奥から生徒の事をよく見ていた。

「…彼女を見てどう思う?」

テーブルを隅々まで拭くと、無愛想な声は答える。

「さぁね。何をそんなに焦っているのか…。必死すぎて少し周りが見えていない様な気がするね。」

「…。…ああ。」

「…でもいいコだよ。食にはそんなに強くないようだがね。

…皆、食堂で働いている私達のことなんざ、空気みたいなもんだと思っているようだけど、

あのコはよく礼を言ってくれるよ。『美味しかったです。』ってね。」

「ふ〜ん。」

スティングレイは頷いてからゆっくりと立ち上がる。

「ありがと。おばちゃん。」

「ダグラス・スティングレイ。…あんたも。ちゃんと食べなよ。」

食事時にやってきて珈琲しか飲まないスティングレイへの言葉。

彼女にとって、未だスティングレイもまた士官学校の生徒と同じ様なものだった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ