士官学校編
□6.涙
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『あなた、本人を見たことがある?私、遠目で見たことがあるけど、スッゴいハンサムなのよ!』
『知ってるわよ!そんなこと有名よ!…でも、女癖が悪いらしいわよ。』
『英雄色を好む。って言うから、仕方ないんじゃない?彼なら許せるわ〜!』
学校内でこんな風な会話を何度耳にしたことだろう。
ロイは自分とは遠い存在なのだと、確認するのには十分すぎるくらいだった。
…自分とのことは、ロイにとってはほんの寄り道のようなものにすぎなかったのだ。と思いもした。
…それでも良かった。
あの時のロイの気持ちに嘘や偽りは無かったと信じている。
…ただ、もう通り過ぎてしまっただけなのだ。
リザは部屋の一番奥の本棚と本棚の間ににいた。
隠れる場所もなく、気付かれずに部屋をでていくこともできない。
リザは持っている本を強く抱きしめるようにして持ちながら、そのまま立ち尽くしていた。
本棚で見えないが、ロイと室長の声は少しずつ近づいてくる。
「…変わらないですね。ここは。」
本を手に取り、パラパラとページをめくる音がする。
「……。」
リザの頭の中に、ロイの指先が思い出された。
…この本棚の向こう側にロイが居る。
リザとロイは本棚を間に挟み、丁度向かい合っていた。
…変わらない、優しい声。
リザの目から涙がこぼれ落ちる。
…それはリザが二年ぶりに流した涙だった