士官学校編
□13.偽りの癒やし
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空のワイングラスを持つ、美しい手。
その指先が一番美しく見える角度を正確に知っている女性。
男が慣れた手つきでワインの栓を抜き、そしてそのグラスに赤い液体を注ぎ入れた。
フワリと高価な香りがする。
彼女は男を見上げた。
当然のことながら、自分の美貌が最大限に引き出されるように気をつけながら。
「貴方は飲まないの?ロイ。」
ワイングラスは一つしかない。
ルームサービスを持ってきたボーイはどうしてグラスを一つしか持ってこなかったのだろう。
女は頭の片隅で考える。
ロイはワインの瓶をテーブルに置き、意味ありげに笑う。
「飲むつもりですが?」
「ならもう一つ持ってこさせましょう。」
女はグラスを置く。
ロイはそのグラスを手に取った。
「私が必要ないと言ったんだ。」
女は不思議そうに、だが面白そうに幾分か笑いを含みながらロイを見る。
「私と貴女で飲むのにグラスは二ついらない。」
ロイはそう言って、ワインを一口、口に含んだ。
それだけで遊びなれた人妻は、ロイの行動の意味が解る。
ロイは女のすぐ側に回り込み、そして唇を合わせて口移しでワインを女に飲ませた。
「…ん。」
ロイは女の首筋にキスをする。
高価なドレスにも構わずに、少し強引に布地を引っ張り、勢い良く背中のファスナーを下ろす。
ドレスの下に手を滑り込ませる。
女はロイの首に両手を回した。
「ね。次はいつ会えるの?」
ロイは苦笑いをする。
「会ったばかりなのに次の心配をしているんですか?」