士官学校編

□14.それぞれの決意
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…―中央司令部本部。
大総統の権威を示すように、大きく、そして堅牢な要塞を思わせる外観。
堂々とその機密性を誇示するかのように建てられた高い外壁に囲まれている。

ロイは現在の中央勤務においての上官、オルビー将軍の執務室に呼び出されていた。

平和よりも権力争いの方に夢中であるこの男も、若い頃はそれなりに信念をもって軍務に当たっていたらしい。
信念を貫こうと固い意志をもっていた男をこうも変えてしまう金と権力とは、一体何なのか。

現在の彼が自分の行動に信念など欠片ももっていないということは、その覇気の無い目を見るだけで一目瞭然だ。

偉そうにふんぞり返っていても、自分を陥れるものが周りに無いかどうか確かめるのに必死でいる。

彼はロイの将来が有望視されていることにもことさら嫉妬していた。

…つまらない男だ。

ロイは表情を変えぬまま、目の前の男を見る。

こんな男があんな良い女とよく結婚できたものだと思う。

しかもあの人は心の底ではこの男をまだ愛している。

まったく…。
わからないものだ。

「マスタング。先日のクレタ兵による人質事件の事だが。」

「はい。」

クレタ兵が西部方面の山岳地帯、観測所職員を人質にとりアメストリス軍と交渉をしようとした事件。

当初の令は、犯人の即射殺だった。

人質の命に対しての言及は無かった。

現場から近い西方司令部ではなく、中央司令部の隊が直々に赴いたのも、大袈裟すぎるほどの装備と人数で現場に赴いたのも、アメストリス軍に対して、人質を盾に交渉をする事は不可能だ。という事をクレタに見せつけたいが為だった。

その時隊の責任者として隊を率いていたのはロイだ。

現場でのロイの采配は、人質の命を最重視したものだった。

先んじて偵察に赴いたのは、偶然にも現場の近くに居合わせた士官学校の者達だ。
報告によると、犯人達は見る限り所持している武器も少く、かなり疲弊している様子だったという報告だった。

国境警備の目を掻い潜っての不法入国、そして人質を盾に籠城するなど、彼らにも体力と精神力の限界があったのだろう。



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