士官学校編

□16.記憶の愛撫
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ポツポツと降り始めた雨の粒は大きかった。
その粒の数は見る間に増え、やがてどしゃぶりの雨に変わる。

バケツの水を頭からかぶったように、雨に濡れた二人。

スティングレイはリザを、士官学校寮よりも近い彼のアパートへ連れて来た。

「狭いけど勘弁な。」

スティングレイはそう言って、濡れた手で鍵を回しドアを開ける。

玄関のドアを開けるとそこには直接リビングが開けている。

「散らかってんなぁ。」

スティングレイは自分の部屋ながら呆れた声を出した。

「上がって。」

スティングレイはそう促し、タオルを持ってきてリザに渡した。

リザはタオルを受け取り、濡れた髪や顔を拭く。

スティングレイの言うとおり、そんなに広い部屋とは言えなかったが、リビングにある一際大きな窓がリザの目を引いた。

窓から見える外の様子は、相変わらずの土砂降りだ。





「大丈夫か?」

気づくとスティングレイの顔が目の前にある。

「っ…、はい。」

リザはボンヤリしていたのを誤魔化す様にタオルを持ったまま止まっていた手を動かし、髪を拭いた。

「…。」

スティングレイは黙って、リザを見つめる。

それでも次の瞬間には、リザの頭の中でフラッシュバックの様にあの光景が蘇る。





綺麗な手。

その時のロイの表情は見えなかった。

…あの時のように真っ直ぐで愛しげな顔をしていたのだろうか?





グイと腕を掴まれ我に帰る。

リザは気づけば、またもキスをされていた。

さっきのキスのように有無を言われせない強引なキスではない。

軽く唇を合わせるだけ。

リザが気付いて目を見開きスティングレイの顔を見ると、スティングレイはチュッと音を立てて唇を離した。
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