士官学校編
□19.リゼンブール2
1ページ/6ページ
「誰だ?アンタ。」
訝しげな顔でスティングレイを見る少年。
デンと呼ばれた犬は少年の元に近づき、少年と一緒になってスティングレイを睨みつける。
「おいおい。二人して…じゃなくて一人と一匹してそんなに睨みつけないでくれ。怪しいもんじゃないよ。ピナコさんの客だ。」
スティングレイは相手を安心させようと、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべる…が、頑固そうな一人と一匹は全く表情も態度も変えようとはしない。
少年はチラリと、アームホルダーで吊られてたスティングレイの右腕を見る。
「ふーん。アンタ右腕が利かないのか。」
「そうだ。」
「義手?機械鎧?」
ずいぶんと無遠慮な少年だ。
「機械鎧。実はピナコさんに断られていてね。泊まり込みでお願いしているって訳さ。」
「ふーん。そんなことだろうと思った。…無駄だよ。ばっちゃんが一度やらないって言ったら絶対にやらない。」
「…そんな感じだな。」
「…あんた。この前電話してきた軍人に戻りたいとかいう奴だろ。」
「そうだ。何故わかる?」
「うーん。軍人っぽい体つき…、や、目だな。」
「目?」
「普通と違う。」
「そうか?」
「ああ。きっとばっちゃんは、あんたのその目が嫌なんじゃないか?」
まだほんの子供の彼に、人の目に映る影が見て取れるというのか。
金色の瞳は、何も見逃しはしないとばかりに強く光を放っている。
スティングレイはその不思議な少年の、率直な態度に好感を抱いた。
「目か。…。」
スティングレイは敬意をもって少年に自分の名を告げる。
「君の名前は?」
「エドワード・エルリック。」
「エド、か。よろしく。君は正直な奴だな。」
「気安く呼ぶなよ。俺は馴れ馴れしい奴は嫌いだ。」
「兄さーん!」
エドワードが先程来た方向から、もう一人の少年がやってくる。
「なんだよアル!」
呼ばれて、エドワードは答える。
少年はスティングレイに気がつくと、深々とお辞儀をした。
「すいません。兄さんがなんか失礼な事言いませんでしたか?」
「んだよ!アル!!余計な事言うな!」
「だって兄さんは、いつもそうだろ!初対面の人にズケズケと色々言ったりするんだから!あのね。兄さんはいつも一言多いんだよ。何かを隠したり、嘘はついたりするのはいけない事だよ。でも言って良い事と悪い事っていうのもある。…礼儀っていうのはまた別の話しなんだよ!何でもかんでも思った事を口すればいいって訳じゃないんだから!!」
少年はガミガミとエドワードを諭す。
エドワードは不服そうだが、一応は真面目に聞いている。
兄弟…。
兄さんってことは、こっちが弟だよな?
スティングレイは確認の為に二人を見比べる。
若干弟の方が背が高いようだが。
…それにしても…。
スティングレイは思わず吹き出してしまう。
なんだこの正反対の兄弟は。
エドワードはキン!!とスティングレイを睨みつける。
「いや。悪い悪い。仲良い兄弟が羨ましくてつい。」
スティングレイは笑いながら言う。
「もし兄さんがなんか言ったとしても、気にしないでくださいね。」
弟は申し訳なさそうに言った。
「けっ!!」
エドワードもう一度スティングレイを睨みつけると、弟とデンを引き連れて行ってしまった。
やれやれ。
気にするなったって…。
子供の言うことだ。
真に受ける必要はない。ということは解る。
しかし、目か。…ますます凹ませてくれる。
.