士官学校編

□23.親友
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…リザは冷たい床にへたりこむ。

目は虚ろで、自分のロッカーの方を向いてはいるものの、彼女の目には全く写っていないようだった。

…彼女はとにかく混乱していた。





「どうしたの!?リザ…!!…こんな所で。このペンキは何!?一体何があったの!?」

男が去ってからしばらくたった頃、リザの目の前にはレベッカがいた。

「リザ!?」

レベッカの声に、ようやくリザは我に返る。

「…レベッカ。」

レベッカはリザをぎゅうと抱きしめる。

「目が覚めたら貴女が居ないから…、色々探し回ったの。心配したのよ?」

「…私……。」

リザはレベッカの体温に、自分の強張りきった体が次第に解けていくのを感じる。

「怪我はしてないわよね?…リザ、熱があるんじゃない?」

リザの目はぼんやりとして、目の淵が赤い。
紅潮した頬は幾分か浮腫んでいた。

レベッカはリザの様子を見て、事情を問いただすのは後回しだと決める。

「レベ…」

リザの呼吸は不自然に途切れては、細かく痙攣するように吐き出される。

「落ち着いてリザ。…ね。ほらちゃんと息を吸って。…ゆっくり吐いて…。…そう、それを繰り返してね。」

レベッカは優しく、リザの呼吸が正しく規則的になるように促す。

リザが落ち着いて呼吸をし始めたのを見計って、レベッカはリザを背負った。

「リザ。部屋に戻るわよ。」

「ごめ…、レベッカ。」

「馬鹿ね。いいわよ。」

ロッカー室から出ると廊下には薄明かりが射し始めていた。

もう朝になろうとしているのだ。





部屋に戻ると、レベッカはリザを降ろす。

リザはレベッカが用意した熱いタオルで体を拭き、びしょ濡れの服を着替えた。

「ねぇ。何があったのか聞いてもいい?誰かがやったのよね?あそこに誰がいたんでしょう?」

レベッカが尋ねると、リザは目を伏せて首を横に振る。

リザは昨晩あったことを全て話してしまいたい衝動に駆られたが、それを口にする事はできなかった。

そうやって心の安穏を得ようとするのはひどく間違った行為の様に思えたのだ。

…彼には、…兄を失ってしまったあの男には、…きっと心の安穏を得る方法が何も無かった。

ただただ憎むことでしか己を保っていられなかったのだ。

そんな彼を誰が責められよう。

レベッカはため息をつく。
そして気持ちを切り替えるように、髪の毛をかきあげた。

「もう!じゃあ寝てなさい!…今氷枕を作ってあげるから。」

レベッカは強引にリザをベッドの中に入れて、横にさせる。
毛布をリザの顎のすぐ下まで引き上げると、レベッカはふぅ。と一息ついた。

「レベッカ。」

「…何?」

「ごめんなさい。」

レベッカは眉をしかめる。

「謝るのは止して。もっと他の言葉がいいわ。」

「レベッカ。大好きよ。」

熱で少し舌足らずになった甘えるようなリザの声。

「嬉しいわ。私がもし男だったら、熱があるのも関係なしに襲い掛かるわね。」

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