企画用

□apple pie〔1〕
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…ガキの頃から同じ夢を何回も見た。

どういう時に見るかと言うと、どうしようもなく悩んでいる時や、マズい事が起きた時とか…、

…とにかくピンチの時に見る夢だ。

柔らくフワフワの空気の中でその女性は俺に微笑みかける。

神々しくて…、…透明で。誰よりも美しい。

彼女はその姿と同じ、透明な美しい声でいつもこう言った。







『――…大丈夫。安心して。』

…と。







…普段会いたいと思ってもその女性はなかなか夢には現れない。

『会いたい…。』

夢の中の人物にも関わらず、俺はいつもそう思っていた。







…なぁ。君は一体なんで俺の夢に出てくるんだ?














晴れて軍人になってすぐの頃だ。

俺は武器の闇取引を主に活動する裏組織の調査に当たっていた。

極端に情報が少ない状況で苦労に苦労を重ねて、ようやく取引の現場を押さえることができたのだ。

白昼堂々と武器の闇取引とは、ずいぶんナメた真似してくれるじゃねぇか。

俺は廃屋のビルの外壁に背中を付け、窓から中の様子を伺っている。

組織の人間は恐らく幹部と思われる人物と取り巻きが二人。

表には見張りがいる。

…取引相手は一人。







ああ。背中が汚れんなぁ。…ったく。

軍服の上着を気にするが、こればっかりは仕方ない。

取引現場を目前に出来たのは良い。

なかなか尻尾を表さないこの組織を一網打尽にするには、これ以上のチャンスは二度とないだろう。

だが先程、司令部に応援を要請したのにも関わらず、未だ来る様子がない。

…取引が終わっちまうじゃねぇか。







額を流れる汗。

…暑いな。

早く済ませて、部屋に帰ってアパートでシャワー浴びてぇ。

…廃屋と廃屋の間は風も無く蒸し暑い。
草がそこいら中に生い茂っていて、青臭い臭いがそこいら中に充満していた。

俺は落ちている錆びた鉄パイプを手に取る。
地面をトントンと何度か叩いて強度を確認する。

そして入り口付近で見張り役をしている下っ端二人を見た。

「…とりあえず。」

音を立てずに素速く移動。
二人の隙をついて鉄パイプで思い切り延髄部分を強く殴りつけた。

「悪い。寝ててくれな。」

二人は声を上げる間もなく床にへたり込んで気絶した。







…さて。
これからどうするか?

残り四人か…。

ま、何とかなるだろ。

ビルの埃と一緒に空気を深く吸い込んだ。
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