企画用

□apple pie〔2〕
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――…取引に使われていた現場から助け出され、俺は病院に運ばれた。

病院に運ばれ、ベッドに寝かせられ、そこからは再び意識を無くしてしまった。







……そして全く何も無い、時間すらない世界から、俺は突如として目を覚ます。

ああ。俺、病院に運んでもらったんだった。

気がついて、そして今までの経緯を思い出す。

…頭がズキズキする。

手で痛む部分を触ると、そこには包帯が巻かれていた。

…消毒液の匂い。

夏だというのにこの部屋はヒンヤリとしている。

ベッドの横に置いてある椅子の背には、血や泥で汚れた軍服の上着が掛けられていた。







トントンと小さくノックの音がした。

返事をすると、ドアが開く。

そこには…。

…。良かった。あれは本当に夢じゃなかったんだ。

…夢の中で恋い焦がれた彼女が今目の前にいる。

「起きたんですね。…良かった。ここに運んでからずっと寝てるから大丈夫かと…」

随分と心配していてくれたのだろう。

肩の力が抜けて、心底ホッとした声で柔らかく微笑む。

思わず俺はガバリと起き上がる。

枕元に置いてあったメガネを手に取る。

ゲゲ。曲がってる。

「無理しないで。まだゆっくりしていた方がいいわ。」


曲がったメガネを掛けて、改めて彼女を見る。

間違いない、やはり彼女。

俺のただ一人の女性だ。
…ふと短い髪の毛を耳にかける仕草も可愛らしい。

あんまり俺が彼女をじっと見つめるものだから、彼女は少し驚いている。

「大丈夫…?」

「ああ。お陰でもう何ともない様だ。」

まだ傷は痛んだが、俺は何ともない風を装った。

「お医者様も、特に異常は見られないと言っていたわ。目を覚ましたらもう一度診察してもらって、大丈夫なら家に帰っても良いそうよ。」

失礼かと思いながらも、彼女から目を離すことができない。

だってよ。だってこれが運命の出逢いでなければなんだというんだ!!




「…グレイシア。」

「どうして私の名前を?」

彼女は俺の言葉に、ビックリして目を見開く。

「…父かウィフに聞いたのね?」

「…違う。知ってたのさ。」

「どこかで会ったことが?」

グレイシアは思いだそうと、首を少し傾げながら考える。

「夢でだ。」

「ゆめ?」

「…何度も。俺が子供の頃から…」

「…??」

彼女は俺の額に手を当てる。
体温の低い手は熱を持った額に心地よい。

「頭を強く打ったからかしら?」


「違う違う。本当に。」

グレイシアはクスクスと声を出して笑う。

「…冗談は止めてね。全く…。大怪我して目覚めたばかりなのに…。私を口説いてるの?」

冗談めかしてグレイシアは言う。

『君と夢で会った。』なんて確かにふざけた野郎が使うナンパのセリフみたいだ。

「嘘じゃない。…んで、確かに口説いてんだけどな。」
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