企画用

□apple pie〔4〕
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次の日だ。

もはや何もかんがえないように、努めて無心を心掛けながら朝の中央の街を歩く。

街はいつもと変わらない。

中央の大通りに面する街中はやたら人が多く、同じような店に同じような人々がいつもたむろっている。
あまり好きになれない通りだ。
アイディンティティーに欠けている。

考え方がいつもよりいくらか否定的になっている感があるな。
あまり良い兆候とはいえない。

自分を諌めて、なるべく気持ちを落ち着かせながら一歩一歩確認しながら歩く。

そして曲がり角を曲がった。

都会とはいえ一歩路地に入り、少し歩くと、店も家も人も、少しまばらになる。

特徴の無い空気に色や匂いが彩られる。
その落ち着いた生活感のある区域にグレイシアの父親が営んでいる食堂はあった。

金持ちが来るような店ではない。
あまり新しくもない、こじんまりとした小さな店だ。

グレイシアの父親が取り仕切っている為だろう、女性が好むような可愛らしいもない。

…味の方も、失礼ながらグルメが喜ぶようなものではない。

店は内も外も掃除が行き届いていた。
店の中は簡素でとても居心地が良かった。

料理の味には家庭で食べるような温かみがあった。

家庭料理の温かみ。店でこれを出すことが一番困難な事だと言うことを俺は知っている。

常連の様な客が多く見られたのもそのためだろう。

派手さは無いが、温かく透明感があって美しい、彼女のようだ。





あの『男』は今日来るのだろうか?

奥歯をキリリと噛み締める。







俺は店の入り口のドアノブを回す。

開店一時間前だが、鍵は開いていた。

ドアを開くとカランカランと鳴るカウベルは、俺の緊張感にピリピリとした苛立ちを与える。

「ヒューズさん。」

グレイシアの声。

彼女は奥の厨房との仕切りになっているカウンターの前に立っていた。

「おはようグレイシア。悪かったな。店の準備で忙しい時間に…。何も心配することはないからな。」

「…ヒューズさん。あの人は何をしたんですか?」

グレイシアの表情は硬く強張っていた。

「対したことじゃない。もしそいつが、俺の捜している奴だったら、ちょっくら同行してもらって、ちょっとばかし話を聞くだけだから。」

彼女は少しばかり怯えているようだ。

俺はなるべく何でもないような口振りで話す。

「…心配するな。大丈夫だから。」

そう言うが、グレイシアは笑わなかった。

「今日は止めた方が…」

グレイシアは早口で言った。
そして唾を飲む混む間。

…。

開店前の店にしては静かだ。

今日はグレイシアの父親は?
ウィフは?
来ていないのか?

「なんでそう思う?」

グレイシアに尋ねる。

…が、次に聞こえたのはグレイシアの声ではなかった。

「余計な事を言わない方がいい。お嬢さん。





野太い声だ。

でも俺はこの声がこんなに冷たく響く事を知らなかった。

「…スミス少将。」

当たってほしくなかった。

そうであって欲しくなかった。

スミス少将はカウンターの反対側に隠れ、グレイシアに銃を突きつけていた。
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