企画用
□キスだけじゃなく
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一緒に風呂に入ろうと言いだしたのは彼女だったのに、彼女は頭と体を洗うとすぐにのぼせてしまった。
ロイ・マスタング。
彼女は女だてらに国軍大佐、司令官を勤める。
…すっかりのぼせて、真っ赤な顔をした彼女は艶めきを放つ黒い瞳をトロンとけだるそうにさせている。
とても軍人などには見えはしない。
…しかしひとたび戦場に出れば、彼女の闘いぶりは凄まじく、焔と返り血にまみれた彼女の姿は何より恐ろしく、そして何より美しかった。
彼はその力を彼女に与えた張本人でありながら、その姿に寒気がするほどの恐怖を覚えた。
そして狂おしいほどの恋におちたのである。
「先に出てる。」
そう言って彼女は早々とバスルームから出て行ってしまう。
まったく生殺しもいいところだと彼は苦笑した。
バスルームに一人残されたのは、ロイの恋人兼、仕事上では彼女の副官を勤める、リザ・ホークアイ中尉である。
風呂に入るとすぐにのぼせてしまうロイとは対照的に、彼の入浴時間はとても長い。
彼はバスタブに浸かりボーッとしている時間を大変好んでいた。
このアパートを選んだのも、司令部に近いというのはさることながら、狭い部屋の割に広いバスルームが決め手となったのだった。
バスタブの縁に頭の乗せて、天井を仰ぎ目をつぶる。
バスタブは長身な彼でも充分に脚を伸ばせるだけの広さがあった。
この至福の時を愛しい彼女と共有できたら良いのにと思わないでもないが、人には向き不向きというものがある。
仕方あるまい。
筋張った手でリザは濡れた金の前髪を後ろにかきあげた。
男性にしては繊細で美しい顔だちの彼がそうしている姿は、とても美しくどこか背徳的な赴きさえあった。
時間がたつと湯がすっかりぬるくなってしまい、いつもなら新しく熱い湯を足して入り続ける所だが、そろそろ部屋で待っているロイの事が気になり始めていた。
折角部屋に来てもらっているのに、あまり待たせるのは失礼だ。
そう思い若干物足りなくはあるものの、リザはバスルームを出た。
リザは引き締まった体をバスタオルで拭く。
金色の髪は少しばかり伸びすぎていて、彼の首筋に張り付いている。
鏡には背中の入れ墨と火傷の痕が映っている。
それは彼にとって、罪の証であり、誇りでもあった。
脱衣所に置いてあった洗い立てのTシャツと楽なボトムを身につける。
「ん?」
脱衣所に置いたままになっているロイの下着とパジャマを見てリザは首を傾げた。